続パスカルの葦笛のブログ

FMラジオやテレビやCDのクラシック音楽の放送批評に特化したブログです。

もうフルトヴェングラーっ子とは云わせない。バレンボイム指揮ベルリン国立歌劇場管弦楽団のブラームス4番(3)

3楽章バレンボイムは恐るべき指揮者に変貌した。テインパニが証明する。


宇野功芳の中学の同級生に音楽フアンがいて、ということは宇野も中学生の頃は同じだったわけだが、演奏家はどうでもよく、曲を聞いて楽しむに如かず。死ぬ近くの同窓会で再会し、彼はこの同級生に非常な興味を持った。出発点のまま80歳を迎え少しも進歩せず、生涯クラシックを楽しみにして終わる。これも又人生なのであり、非難するわけにはいかない。9年かかって憧れの早稲田に合格した人が今話題になっている。多分弟子筋でない宇野が音楽大学を受験し合格点を取った時、声楽科では外様の彼を誰も引き受けなかったのだろう。柳兼子だけが引き受けたらしい。音大は弟子筋で持っているようなものだ。入学生を集めてくれるのだから、相互扶助になっている。26歳で入学した話だ。昭和20年代では浪人はなく、犯罪者扱いだから、凄い話だ。この恩が後の高評価になっている。音楽評論で才能が開き、国産のクラシックの芽を開花させる先駆者になった。(その過程で宇野は演奏にアゴギークがあることに気づいて認識出来るようになった。ここで中学の同級生と同じレベルから分かれた。評論の才能が出た。)


本屋には今三種の楽譜が売っているから、楽譜を買って第三楽章のテインパニの部分(パート)を見られたい。楽譜を買ってクラシックを聴く人なら、ここでバレンボイムが普通でないことをしていることは明瞭に分かるはずである。


第三楽章。
32-34小節のテインパニはトレモロの連打である。
4小節も続く長いトレモロであるが、34小節でクレッシェンドを掛ける指揮者が多数くいる。トスカニーニ指揮NBC交響楽団、バーンスタイン指揮ウィーン・フィルーがそうだ。
そしてまたバレンボイム指揮ベルリン国立歌劇場管弦楽団である。以前のバレンボイムではそうゆうこともしなかったのである。


88小節のテインパニでバレンボイムはクレッシェンドを掛けた。
前出の三者に、今度はシューリヒト指揮バイエルン放送交響楽団が加わる。


223小節のテインパニでバレンボイムがクレッシェンドを掛けた。
前出の34小節ではトスカニーニやバーンスタインがやっているのに、ここは休んでいる。りちぎにバレンボイムだけが再現しているのが面白い。


最大の見せ場は323小節のテインパニである。
323-324小節のバレンボイムの解釈は、彼の一世一代の見栄を切る場面であったかも知れないのである。恐るべき指揮者への変貌である。
冒頭開始でpに弱め、わずか2小節の間クレッシェンドが掛かり一気にffに上昇するのである。聞いているものは驚天動地に成るのは必然であろう。


ぜひここを聞いてもらいたい。(原型はシューリヒトだが、彼は単にクレッシェンドしただけ。そこをバレンボイムは一工夫したわけだ。ここで俺の個性を出すんだという決断だろう。こうしてシューリヒトを越えた。)


バレンボイムが発狂したとまではいわないが、凄い乱舞である。オーケストの方がたまらないだろう。よくもこんな狂気を表現出来たものだ。そこが技術者の名人芸なのだろう。指揮者は芸術家、オーケストラは技術者集団ということだ。


さて、最後に。あれほど師事したシューリヒトは345小節で荒れ狂うのであるが、さすがに荒れ狂ったバレンボイムは静観の構えである。347小節のテインパニで、バレンボイムは楽譜のffを受けて、8分音符を激烈に打つた。
聞く者をこれほど疲労させる名演はなかろう。