続パスカルの葦笛のブログ

FMラジオやテレビやCDのクラシック音楽の放送批評に特化したブログです。

サリンジャーとボブ・ディラン「私はこの世から忘れられ」

「私はこの世から忘れられ」とは、グスタフ・マーラーの歌曲だが、カルロス・クライバーの伝記の副題になっている。この人もマスコミの寵児にして「私はこの世に忘れられて」派の隠遁生活を好んだ。(ちなみに夫人の故郷である東欧の小国に住居して、スロベニアは桃源郷のような純朴で美しい土地らしい。冷蔵庫の食品が空になったら指揮をするんだ、にくいセリフだよ。) 人には厭世主義を好むきらいがあって、例えば村上春樹は…

サリンジャー『ライ麦畑でつかまえて』と「完全なる問題作」(NHK)

その作品は善か悪か。人々の議論を巻き起こす問題作に迫るドキュメンタリー。「キャッチャー・イン・ザ・ライ」。世界的ベストセラーは何故全米で禁書処分を受けたのか?(NHK) 暴力的な描写や不道徳な表現、ジョン・レノン殺害の犯人やレーガン大統領暗殺未遂の犯人が愛読していた『ライ麦畑でつかまえて』は問題作であった。ドロップアウトの『聖書』なのか殺人者の『聖書』なのか。 ドストエフスキーの『罪と罰』以来サ…

世界初のプロの女性指揮者ベロニカ・ドゥダロヴァ(1916-2009)

ドゥダロヴァはロシアの指揮者、1944年ないしは1947年にプロの指揮者になった。女性の社会進出はソビエトでも奨励され、その建前でプロの指揮者の道を歩み出すことが出来た。アメリカでもそれは試みられたが、成功には至らず挫折の映画化がされている。そういう点ではお題目があることは、女性の励みにはなった。 *スウェーデンのドキュメンタリー映画『女は危険な賭け、6人のオーケストラ指揮者』(1987年)があ…

何故彼らはブルックナー4番初稿版1874年版に憧れるのか

2024年ブルックナー生誕200年記念年、驚くべきことはかくも1874年版初稿版の録音の多岐な数に及ぶことだ。 再度注意喚起すれば、この指揮者たちには新旧2派に分かれる。全く年齢による分類なのだが、新旧両派にまたがるのがエリアフ・インバルで、この人が又初稿版1874年版を最初に録音した指揮者でもあることだ。そうしながら今日も相変わらず初稿版1874年版を指揮し続けているのだが、もっと不思議なのは…

アカデミー賞受賞の『オッペンハイマー』とバービー人形

映画『オッペンハイマー』と映画『バービー人形』が同時期に公開されて2つとも大ヒットした。アメリカの観客は2つは同じと判断したという。2つは男の物語・女の物語で、アメリカの代表的なインテリ男・白痴美人かつ1960年代のアメリカンである。そういえばケネディ大統領と女優マリリン・モンローではないか。 監督は違うので単なる偶然の一致である。しかしそれを楽しむのがアメリカ人だ。アメリカの観客は監督の意図と…

スタインバーグのブルックナー4番の盤歴

スタインバーグ(1899-1978)のブルックナー交響曲4番の最初の録音はピッツバーグ交響楽団で、1956・4・19というデーターが残っている。多分ピッツバーグ交響楽団はブルックナーの交響曲を演奏するのは初めてのようで、困難を極めた練習の光景がドキュメントで残されている。アンディ・ウォホール(1928-1987)が生まれた地元で、ボヘミア移民の多い土地で、音楽は打ってつけであった。 (CAPTO…

オッペンハイマーと現代史

世紀の天才科学者オッペンハイマーとアメリカ共産党党首ランバートとは、6回会っている。ソビエト共産党からウラン鉱床についての情報を入手せよと命じられていた。オッペンハイマーの恋人ジーン・タトロックは知り合いだったので、面会してその情報を得たかった。 ひょんなことから驚くべき情報源を入手することになった。それはまったく偶然なことであった。原爆研究の張本人に、共産党党員の恋人がいて、容易に情報を入手す…

オッペンハイマー、本で読むべし・映画で見るべし

                起 映画『オッペンハイマー』が今月公開されることになった。昨年アメリカで大ヒットしたが、内容が硬いというので日本では見送りとなった。それが撤回された。 オッペンハイマーといえば、日本では本を通してしか知らないわけだが、映画では大いに相違しているらしい。原爆を開発した科学者だが、大いに反省して水爆には反対した。科学者の良心を見せた反戦平和の旗手というのが売りであった…

リアルタイムでスタインバーグのブル5番を聞いていた日本の聴衆

実はスタインバーグ(1899-1978)のミュンヘンのバイエルン放送交響楽団の演奏を1978年に聴いていた日本の聴衆がいたことが判明しました。1978年1月12日にスタインバーグはバイエルン放送交響楽団でブルックナーの交響曲5番の指揮をしたのですが、その年の5月16日に死去したことは驚きで迎えられたらしく、1・2年遅れで放送される海外の演奏会の放送が意外に早くNHKFMで放送されたようです。 で…

ブルックナー生誕200年最大の収穫はスタインバーグ再評価

今年はブルックナー生誕200年記念、最大の収穫はスタインバーグ指揮ピッツバーグ交響楽団の4番の録音(1956・4・19)の演奏だろう。旧聞に属するネタだが、何故これまで人の噂にのらなかったのであろう。余人には求められない新しい響きであった。その新しさが50年も寝かされていたのだ。いい加減熟成され過ぎて腐ってしまいそうだが、一層の輝きを放っている。手垢が付いていなかったので、手練手管の名匠巨匠に揉…

小沢征爾指揮新日本フィルのベルリオーズ『フアウストの劫罰』

古い骨董雑誌に掲載された沢地久枝さんは骨董趣味があった。もう一つクラシック音楽の愛好家で、熱心な小沢征爾フアンであったので、『ファウストの劫罰』を聞いた。同じ演奏会を丸山真男も聞いていたという。 意外だが、小沢征爾はベルリオーズの『フアウストの劫罰』を何回か上演している。思う所があって得意にしたのであろう。そう傑作でもなく馴染み薄い作品を上演することが出来るのは「世界のオザワ」の人気バリューのあ…

小沢征爾指揮SKOのブルックナー7番2003年

世界的な水準でブルックナー7番の指揮をする小沢征爾(1935-2024)である。昨日のNHKテレビの『アナザーストーリー小沢征爾』はゆるい番組だった。アナザーストーリーなら、もう一方の官製巨頭の海野義雄(1936-)との対比で、現在のNHKは小沢征爾支持の立場につくという表明だと思っていた。 1959年にN響コンマスに就任した海野は、1962年にマスコミの寵児小沢征爾にノーを突き付けた。楽壇に人…

小沢征爾指揮水戸室内管弦楽団のモーツアルト35番

オーソドックスに鎮座した小沢征爾のモーツアルト演奏である。その模範は意外にもフェレンチク指揮プラハ・フィル1981年の演奏であった。ハンガリーのクレンペラーと呼ばれた重鎮指揮者だ。(2012・1・19) 第一楽章。 66小節のテインパニはf記号だがフェレンチークと小沢がpにしている。 その他にベーム指揮ウィーン・フィルの演奏も同じだ。 だが172小節のテインパニでpにしているのがフェレンチークと…

追悼小沢征爾、国民から広く深く愛された指揮者

1995年小沢征爾60歳の還暦記念に、当時日テレの人気番組『電波少年』で松村邦洋は赤い燕尾服を小沢征爾に送った。律儀にも小沢征爾は赤い燕尾服を着用した写真を番組に送ってきた。世界の小沢は松村邦洋ですら知っていた。こういう人は二度と現れない。 2024年2月9日の7時のNHKテレビで、2月6日指揮者の小沢征爾が自宅で逝去され享年88歳と伝えられた。この人ほど国民から広く深く愛された指揮者は今後出ま…

キッシンジャーは年齢100歳だけど体は25歳のサイボーグだった

キッシンジャーは年齢100歳だけど体は25歳のサイボーグだった。実は110歳の延命治療を目指して手術をしたが、ブタの臓器を移植されて死亡したらしい。 それに気づいたキッシンジャーは長年の恩顧を感謝する会見を申し入れて、世界中に中国訪問の件を発信した。報道は、キッシンジャー博士は過去6回の臓器移植の手術をしたが7回目の臓器移植は失敗したようだと伝えた。無味乾燥で事務的な報告の中に復讐と怨念が凝縮さ…

ズガン・ソヒエフ指揮NHK交響楽団のベートーベン3番

実に考え抜いた楽譜の使用があった。基本は今では旧態依然のブライトコップ版が使用されていた。どういう気なのかと思わないでもないが、第二楽章では最新のベレンタイター版が一部採用されていたから、最新の流行を気にしていないわけでもない。第四楽章では何とフィルハーモニア版の楽章が採用されて、尻上がりに盛り上がる演奏を抑制して、テンポの遅い演奏を採用していた。指揮者ズカン・ソヒエフは演奏に一家言があるのだ。…

シューリヒト指揮シュツットガルト放送響のモーツアルト35番1956年映像

カール・シューリヒトの指揮した映像は意外に無いのだろう。モーツアルトの交響曲35番フィナーレ楽章のシューリヒトの映像が見えるのが貴重だ。ストラビンスキーの『火の鳥』全曲の映像と交換したいところだが、敗戦後まもない物資不足のドイツで、是が非でも巨匠の姿を残したい放送局の別の意味があった。 ドイツのヘンスラー・クラシックというレーベルが、音楽的ポートレイトと合わせてストラビンスキーのバレー組曲『火の…

2023年のバレンボイムの動向と6月のチャイコ5番の演奏

2023年1月31日をもってベルリン国立歌劇場管弦楽団の音楽監督を退任するというバレンボイムの1月7日の発表は驚かされた。この日はベルリン・フィルを椅子に座って指揮したので、よほど弱気になったらしい。アルゲリッチのピアノでシューマンのピアノ協奏曲、ブラームスの交響曲2番が演奏された。定期演奏会ではカラヤンの晩年に近い短い演奏会だった。それはあらゆる意味で終焉を予感させるものだ。 3月9日、ウィー…

藤田真央・大野和士指揮東京都交響楽団のブラームスピアノ協奏曲1番

1月1日から31日まで限定で藤田真央のブラームスピアノ協奏曲1番がユーチューブで公開されている。大層期待していたが、普通の日本人の演奏になってしまって残念だ。 モーツアルトのピアノ協奏曲20番、アンサンブル金沢の演奏は良かった。(2021・4・23)ああいう演奏を期待したい。CD化してもいいくらいの演奏だった。ルフェビユール、バドウダ=スコダ、ハスキル、グルダと藤田真央は互角の勝負をしているから…

吉田秀和と京須偕充

  TBSテレビの名物番組『落語研究会』で長らく解説をしている京須偕充は落語評論家である。しかし隠れた面はソニー・レコードの課長というサラリーマンであった。さらに驚くべき話はソニーで発売するクラシック・レコードの新譜を毎回鎌倉の吉田秀和邸に運ぶ人だったことだ。レコードのライナーノーツの依頼をするためであった。 さらに不思議なのは、吉田秀和はソニーの課長さんが裏仕事では有名な落語評論家でもあったこ…