続パスカルの葦笛のブログ

FMラジオやテレビやCDのクラシック音楽の放送批評に特化したブログです。

小沢征爾指揮新日本フィルのベルリオーズ『フアウストの劫罰』

古い骨董雑誌に掲載された沢地久枝さんは骨董趣味があった。もう一つクラシック音楽の愛好家で、熱心な小沢征爾フアンであったので、『ファウストの劫罰』を聞いた。同じ演奏会を丸山真男も聞いていたという。 意外だが、小沢征爾はベルリオーズの『フアウストの劫罰』を何回か上演している。思う所があって得意にしたのであろう。そう傑作でもなく馴染み薄い作品を上演することが出来るのは「世界のオザワ」の人気バリューのあ…

小沢征爾指揮SKOのブルックナー7番2003年

世界的な水準でブルックナー7番の指揮をする小沢征爾(1935-2024)である。昨日のNHKテレビの『アナザーストーリー小沢征爾』はゆるい番組だった。アナザーストーリーなら、もう一方の官製巨頭の海野義雄(1936-)との対比で、現在のNHKは小沢征爾支持の立場につくという表明だと思っていた。 1959年にN響コンマスに就任した海野は、1962年にマスコミの寵児小沢征爾にノーを突き付けた。楽壇に人…

小沢征爾指揮水戸室内管弦楽団のモーツアルト35番

オーソドックスに鎮座した小沢征爾のモーツアルト演奏である。その模範は意外にもフェレンチク指揮プラハ・フィル1981年の演奏であった。ハンガリーのクレンペラーと呼ばれた重鎮指揮者だ。(2012・1・19) 第一楽章。 66小節のテインパニはf記号だがフェレンチークと小沢がpにしている。 その他にベーム指揮ウィーン・フィルの演奏も同じだ。 だが172小節のテインパニでpにしているのがフェレンチークと…

追悼小沢征爾、国民から広く深く愛された指揮者

1995年小沢征爾60歳の還暦記念に、当時日テレの人気番組『電波少年』で松村邦洋は赤い燕尾服を小沢征爾に送った。律儀にも小沢征爾は赤い燕尾服を着用した写真を番組に送ってきた。世界の小沢は松村邦洋ですら知っていた。こういう人は二度と現れない。 2024年2月9日の7時のNHKテレビで、2月6日指揮者の小沢征爾が自宅で逝去され享年88歳と伝えられた。この人ほど国民から広く深く愛された指揮者は今後出ま…

キッシンジャーは年齢100歳だけど体は25歳のサイボーグだった

キッシンジャーは年齢100歳だけど体は25歳のサイボーグだった。実は110歳の延命治療を目指して手術をしたが、ブタの臓器を移植されて死亡したらしい。 それに気づいたキッシンジャーは長年の恩顧を感謝する会見を申し入れて、世界中に中国訪問の件を発信した。報道は、キッシンジャー博士は過去6回の臓器移植の手術をしたが7回目の臓器移植は失敗したようだと伝えた。無味乾燥で事務的な報告の中に復讐と怨念が凝縮さ…

ズガン・ソヒエフ指揮NHK交響楽団のベートーベン3番

実に考え抜いた楽譜の使用があった。基本は今では旧態依然のブライトコップ版が使用されていた。どういう気なのかと思わないでもないが、第二楽章では最新のベレンタイター版が一部採用されていたから、最新の流行を気にしていないわけでもない。第四楽章では何とフィルハーモニア版の楽章が採用されて、尻上がりに盛り上がる演奏を抑制して、テンポの遅い演奏を採用していた。指揮者ズカン・ソヒエフは演奏に一家言があるのだ。…

シューリヒト指揮シュツットガルト放送響のモーツアルト35番1956年映像

カール・シューリヒトの指揮した映像は意外に無いのだろう。モーツアルトの交響曲35番フィナーレ楽章のシューリヒトの映像が見えるのが貴重だ。ストラビンスキーの『火の鳥』全曲の映像と交換したいところだが、敗戦後まもない物資不足のドイツで、是が非でも巨匠の姿を残したい放送局の別の意味があった。 ドイツのヘンスラー・クラシックというレーベルが、音楽的ポートレイトと合わせてストラビンスキーのバレー組曲『火の…

2023年のバレンボイムの動向と6月のチャイコ5番の演奏

2023年1月31日をもってベルリン国立歌劇場管弦楽団の音楽監督を退任するというバレンボイムの1月7日の発表は驚かされた。この日はベルリン・フィルを椅子に座って指揮したので、よほど弱気になったらしい。アルゲリッチのピアノでシューマンのピアノ協奏曲、ブラームスの交響曲2番が演奏された。定期演奏会ではカラヤンの晩年に近い短い演奏会だった。それはあらゆる意味で終焉を予感させるものだ。 3月9日、ウィー…

藤田真央・大野和士指揮東京都交響楽団のブラームスピアノ協奏曲1番

1月1日から31日まで限定で藤田真央のブラームスピアノ協奏曲1番がユーチューブで公開されている。大層期待していたが、普通の日本人の演奏になってしまって残念だ。 モーツアルトのピアノ協奏曲20番、アンサンブル金沢の演奏は良かった。(2021・4・23)ああいう演奏を期待したい。CD化してもいいくらいの演奏だった。ルフェビユール、バドウダ=スコダ、ハスキル、グルダと藤田真央は互角の勝負をしているから…

吉田秀和と京須偕充

  TBSテレビの名物番組『落語研究会』で長らく解説をしている京須偕充は落語評論家である。しかし隠れた面はソニー・レコードの課長というサラリーマンであった。さらに驚くべき話はソニーで発売するクラシック・レコードの新譜を毎回鎌倉の吉田秀和邸に運ぶ人だったことだ。レコードのライナーノーツの依頼をするためであった。 さらに不思議なのは、吉田秀和はソニーの課長さんが裏仕事では有名な落語評論家でもあったこ…

ヤッシャ・ハイフェッツとポンセ『エストレリータ』考

   すでに戦前に発売されていたSP盤『エストレリータ』のレコード。 偏愛の巨匠ヤッシャ・ハイフェッツ(1901-1987)は、世に偏食という偏った食品が好きでそればかり食べる人がいるが、下品と評されても一向に気にしないで愛し続けた音楽があった。偏愛の巨匠だった。 ナチス時代帝国音楽院総裁という要職にあったことでナチス御用と称されて、イスラエル国内では演奏禁止にされたリヒアルト・シュトラウスを堂…

テイーレマン指揮ウィーン・フィルの『美しき青きドナウ』

2025年のウィーン・フィルのニューイヤーコンサートはとんだハプニングに襲われた。 1月1日の能登地震で、テレビもFMも中止で、1月6日のテレビの再放送が本番になってしまった。しかし指揮者ティーレマンは日々新しかった。2019年の一回目に2025年は更なる進化が認められた。 ティーレマンは2000年がウィーン・フィルの最初の登場で、この時の力関係は1:100であったが、今回は逆転して100:1の…

江戸時代のイーロン・マスク中江藤樹(1608-1648)

江戸時代に陽明学を中国から輸入した儒学者中江藤樹(1608-1648)です。 (起) 実は中江藤樹は潜伏キリシタンだったという説がある。日本の肖像画の元祖は聖徳太子で手に王のシンボルの尺を持っている。武田信玄は軍配を持ち覇王とする。千利休は道を究める者として扇子を持たせている。合掌の組手をした肖像画は極めて少ない。キリスト教の祈りのシンボルだという。俗説に潜伏キリシタンは罰として中三本を切断し祈…

マーラー・プリングスハイム・山田一雄・下野竜也第九の系譜學

第一楽章300小節のテインパニの後半で山田と下野はリタルランドした。 山田一雄のこの演奏に接した時、私の動物的直感はマーラーが第九を演奏した時の痕跡ではないかというものだった。1943年からたった30年前肉体のマーラーがおこなった第九演奏を弟子のプリングスハイムは覚えていた。 下野竜也は2023・12・23にNHK交響楽団で、こう演奏した。この演奏に接した時、私は確信に変化した。マーラーから伝授…

「疾走するモーツアルト」デュメイ指揮関西フィルの40番

まさか小林秀雄の「モーツアルト」がフランス人に影響したとは思わないが、遂に「モーツアルト」の評論のテーマらしい演奏が現れた。それがデュメイ指揮関西フィルの40番の演奏だった。 とりわけ40番の第一楽章の疾走するト短調の主題は小林秀雄の思いをデュメイが解して演奏したとしか思えない「疾走する悲しみ」を表現していた。 小林秀雄は生涯を通して『悲劇』をテーマに追求した思想家であった。ドストエフスキー・モ…

アゴギークの極地デュメイ指揮関西フィルのモーツアルト40番

デュメイの40番は、年間名演ベストテンのベストワンに輝いた。とりわけ第四楽章は名演だった。 今回のデュメイの40番の演奏のコンセプトは緩急の対立にあった。急速な演奏のためにその後の緩和が目立って名演に感じられた。関西の落語の名人に緊張の緩和が笑いを誘うという理論があったが、名演の壺もそんなところにあったのだろう。 デュメイは楽章の開始は恐ろしいくらい速いのだった。その後に緊張の緩和があるという企…

バーメルト指揮札幌交響楽団のシューベルト8番第四楽章

シューベルト交響曲8番第四楽章旧版1078-1081小節のテインパニです。新全集版では弦楽のfz4つに合わせてテインパニで2分音符が4つ打たれている。この譜面を見る限り、そうかも知れないと思わせる。ここが新全集版の校訂者の売りの物件になっている。 誰かが自筆譜を見て、シューベルトはテインパニは空白だと発見した。 校訂者はウソをいっていると言い出した。 校訂者は1078小節のテインパニの4分音符は…

バーメルト指揮札幌交響楽団のシューベルト8番第二楽章2

メインカルチャーが揺らいでいる時、注目されるのがサブカルチャーの存在である。バーメルトはサブカルチャーに注目した演奏をこの第二楽章で演奏している。 80小節の続き、83小節のクラリネット、85小節のオーボエと歌い継がれる旋律に、84小節のチエロで突如として別の旋律が聞こえる。これがサブカルチャーだ。 97小節のクラリネットがソロで主旋律を演奏すると、98小節の付点4分音符の後、また下位のチエロが…

バーメルト指揮札幌交響楽団のシューベルト8番第2楽章

第2楽章は名演だった。対位法の演奏法を駆使して、通常は沈んだ声部を浮上させて驚くべき魅力的な演奏をして見せた。 際立った2つの対立した旋律を同時に聞くことは煩わしいはずだが、名指揮者の資格はどれを主旋律に決定し、無慈悲な副旋律として決めて沈んでもらうことだ。基本的には指揮者の仕事は交通整理をする警官の手の動きで、百台の車の動きを制御することにある。ストコフスキーと交通警官が白い手袋でジェスチャー…

バーメルト指揮札幌交響楽団のシューベルト8番

日本ではアバドが録音した新全集版の8番の演奏は評判が悪く、旧版が通常演奏される。 今回は新全集版に基ずいた第一楽章201-202小節のホルンの延長が演奏された。引用は205小節以降で、2か所で新全集版の変更が見える。 205,209小節のホルンが2小節延長されているのが新全集版なのだが、今回バーメルト指揮札幌交響楽団の演奏で日本では初めて音にされたのではないか。 余談だが、フルトベングラーやトス…