ホーネック指揮チェコ・フィルのチャイコフスキー5番
1-3楽章は空振りといったところか。第四楽章、狂気から生み出されたホーネックの独自な解釈が生まれた。
Poco piu animatoを狂気に満ちた熱情と解したホーネックは漫画的な速さでアッチェレラント(加速)で演奏した。
ホーネックは296-307小節まで、狂気的な速さで演奏させると、308小節からテンポを落とした。
いわゆるアゴキーク(伸縮)だが、これをコーダまで何回もある時は速めある時は緩めるのだった。
その間、伝統的な諸指揮者がやる箇所でもその伝統に耳を貸さなかった。502小節のリタルランドも、ホーネックは採用しなかった。あっさり素通りしている。その意欲は大したものだ。
ホーネックはメンゲルベルクやストコフスキーの名演に苦しんでいるのである。彼らに依存しない新しい解釈を生み出そうとしている。
第二楽章の141小節のリタルランド、第四楽章の45小節のリタルランドも、ホーネックは無視した。他の伝統的な指揮者のような演奏はしたくなかったのだ。とはいえ、そうおいそれと「美味しい」ところがあるわけではない。
今回ホーネックは他では聞けない取って置き御馳走を用意したわけである。そして最後は定型通りの終わりで締めくくった。
ホーネックは最後をリタルランドで終えた次第である。
エッセイスト坪内祐三がいたが、奥さんは「面倒くさい人」だったで締めくくった。その一言は分かる気がする。そういうホーネックの「面倒くさい人」がクラシック音楽を豊かにしていたのである。
ホーネック指揮チェコ・フィル(2023・8・30)