続パスカルの葦笛のブログ

FMラジオやテレビやCDのクラシック音楽の放送批評に特化したブログです。

ホーネック指揮チェコ・フィルのチャイコフスキー5番

1-3楽章は空振りといったところか。第四楽章、狂気から生み出されたホーネックの独自な解釈が生まれた。 Poco piu animatoを狂気に満ちた熱情と解したホーネックは漫画的な速さでアッチェレラント(加速)で演奏した。 ホーネックは296-307小節まで、狂気的な速さで演奏させると、308小節からテンポを落とした。 いわゆるアゴキーク(伸縮)だが、これをコーダまで何回もある時は速めある時は緩…

装飾音符を演奏したリーニフ指揮プラハ・フィルハーモニアのモーツアルト38番

オクサーナ・リーニフ(1978-)が楽譜にない装飾音符を演奏したことで古楽器派のモーツアルト指揮者であることが判明した。かつ大変な名演であった。 第一楽章。 121-123小節のホルンはf明記ながら、アンスネスとリーニフはこのfをそれ以上に強調していたところで、並みの指揮者でない頭角を現した。 240小節のテインパニのトロモロで、アンスネス指揮スウエーデン放送響とリーニフはsfで強調したのが注目…

ローカル色満載ポペルカ指揮プラハ放送響のドボ8番

ペトル・ポペルカ(1986-)はウィーン響を解任されたエストラーダの後任になった人だ。余程の実力のある人と見たが、ローカル色満載でドボルザーク8番を指揮した。それはCD録音でよく聞く演奏とは異なって、異色な演奏となった。 小生はマンフレット・ホーネックを天才と崇めている信者なのであるが、ポペルカの演奏を知って天才ではなくてボヘミアのローカル色・地方色豊かな伝統のなせる業であることを知った次第であ…

エッシェンバッハ指揮NHK交響楽団のブルックナー7番

今夜のN響ライブ放送の圧倒的な喝采に、躊躇せざるを得ないのであるが、エッシェンバッハ不調説を唱えたい。 第一楽章、199-122小節の金管の曖昧模糊なテンポの落とし方に賛成できかねた。 今回のエッシェンバッハのポコ・リタルランドは、奇しくもハイテインク指揮ウィーン・フィル(2019・8・31)と同じで、最後に一か所テンポを落としたものとなったが、奇妙にも形が崩れてテンポが落ちるものであった。エッ…

ヤノフスキ指揮NHK交響楽団のブラームス1番

ヤノフスキのブラームス交響曲1番は、ドイツの正統派の演奏を披歴するというよりは、結構独自の解釈を前面に出したものであった。(2024・4・13) その最たるものは第一楽章のコーダに現れた。 495小節「メノ・・アレグロ」のホルンの強調は歴然としていた。楽譜はpだが、ヤノフスキは505小節までfで強調しながら、一貫してホルンだけを浮上して演奏させていた。 今回のヤノフスキの演奏では、なかなか正統派…

独創的だったデュフレーヌ指揮東京フィルのベルリオーズ『幻想』交響曲

女性新人指揮者のクロエ・デュフレーヌ(1991-)の『幻想』は独創的な響きが随所で聞こえた。東京フィルに初登場であるそうだ。 第一楽章、「夢・情熱」で、490小節。 490小節のテインパニは、楽譜は8分音符2つになっているが、フランスの伝統では4分音符1つで打つようである。フランス人のデュフレーヌは1打で演奏していた。 とりわけ第二楽章「舞踊会」は傑作であった。 76-84小節のホルンは他では聞…

十代目市川団十郎(1882-1956)の謎を解く。富豪刑事・富豪同心・富豪歌舞伎役者

     華麗なる柳田国男の一族(長兄松岡鼎の再婚者が十代目団十郎の姉)  大正天皇の貞明皇后の前で松岡天才四兄弟に言及する人がいると、田舎に兄さんが一人いると松岡鼎(1860-1934)の名前を、貞明皇后が挙げたという逸話が残されている。この人の後妻が十代目市川団十郎の姉で、後離別され実家からも追い出されて自殺した。 その前に文献的なことを言わせて頂く。坪内祐三の母は井上泰子で、その父は井上泰…

大野和士指揮東京都交響楽団ブルックナー3番(4月3日ライブ)

4月3日ライブというと今日です。まだライブになっていません。今から19時間前投稿というと、4月2日4時ということになります。午前のリハーサルということになりますか。 面白いですね。4月3日午後7時サントリーホール開演の演奏を一足先に耳にしました。といことで、一足先に大野和士指揮東京都交響楽団でブルックナー3番『ワーグナー』の演奏を聴きました。第三楽章、第三稿でいうと103小節から、ユーチューブの…

NHKスペシャル『未解決事件下山事件』とジャーニー喜多川

1949年『下山事件』が起きて、70年が経過して下山事件も風化して、分かったことがある。もう少しも重大事件でなくなった。そこで初めてNHKは大胆にもアメリカの謀略だと断定したことである。 西武の堤清二と柳田邦男との対談で、堤は共産党員の在籍と細胞活動からアメリカの謀略を認め、柳田邦夫は断固否定したのが面白かった。柳田は日本のインテリの典型で、教科書以外は認めない気風がある。教科書の巻末には正解が…

連続テレビ小説『ブギウキ』最終回と笠置シズ子の時代

今日で『ブギウキ』最終回となりました。笠置シズ子の死まで演じられるのかと思ったら、意外でした。ブギウキの女王として戦後闇市、まさにオキパオト・ジャパン占領下の日本を代表する歌手でした。 笠置シズ子のものまねで出てきた美空ひばりに、歌手の座を奪われる笠置シズ子は喜劇女優として映画に転じるわけです。美空ひばりは嫌いだと公言していましたね。皆さんも気づいておられるでしょうが、笠置シズ子のブギウキのリズ…

サリンジャーとボブ・ディラン「私はこの世から忘れられ」

「私はこの世から忘れられ」とは、グスタフ・マーラーの歌曲だが、カルロス・クライバーの伝記の副題になっている。この人もマスコミの寵児にして「私はこの世に忘れられて」派の隠遁生活を好んだ。(ちなみに夫人の故郷である東欧の小国に住居して、スロベニアは桃源郷のような純朴で美しい土地らしい。冷蔵庫の食品が空になったら指揮をするんだ、にくいセリフだよ。) 人には厭世主義を好むきらいがあって、例えば村上春樹は…

サリンジャー『ライ麦畑でつかまえて』と「完全なる問題作」(NHK)

その作品は善か悪か。人々の議論を巻き起こす問題作に迫るドキュメンタリー。「キャッチャー・イン・ザ・ライ」。世界的ベストセラーは何故全米で禁書処分を受けたのか?(NHK) 暴力的な描写や不道徳な表現、ジョン・レノン殺害の犯人やレーガン大統領暗殺未遂の犯人が愛読していた『ライ麦畑でつかまえて』は問題作であった。ドロップアウトの『聖書』なのか殺人者の『聖書』なのか。 ドストエフスキーの『罪と罰』以来サ…

世界初のプロの女性指揮者ベロニカ・ドゥダロヴァ(1916-2009)

ドゥダロヴァはロシアの指揮者、1944年ないしは1947年にプロの指揮者になった。女性の社会進出はソビエトでも奨励され、その建前でプロの指揮者の道を歩み出すことが出来た。アメリカでもそれは試みられたが、成功には至らず挫折の映画化がされている。そういう点ではお題目があることは、女性の励みにはなった。 *スウェーデンのドキュメンタリー映画『女は危険な賭け、6人のオーケストラ指揮者』(1987年)があ…

何故彼らはブルックナー4番初稿版1874年版に憧れるのか

2024年ブルックナー生誕200年記念年、驚くべきことはかくも1874年版初稿版の録音の多岐な数に及ぶことだ。 再度注意喚起すれば、この指揮者たちには新旧2派に分かれる。全く年齢による分類なのだが、新旧両派にまたがるのがエリアフ・インバルで、この人が又初稿版1874年版を最初に録音した指揮者でもあることだ。そうしながら今日も相変わらず初稿版1874年版を指揮し続けているのだが、もっと不思議なのは…

アカデミー賞受賞の『オッペンハイマー』とバービー人形

映画『オッペンハイマー』と映画『バービー人形』が同時期に公開されて2つとも大ヒットした。アメリカの観客は2つは同じと判断したという。2つは男の物語・女の物語で、アメリカの代表的なインテリ男・白痴美人かつ1960年代のアメリカンである。そういえばケネディ大統領と女優マリリン・モンローではないか。 監督は違うので単なる偶然の一致である。しかしそれを楽しむのがアメリカ人だ。アメリカの観客は監督の意図と…

スタインバーグのブルックナー4番の盤歴

スタインバーグ(1899-1978)のブルックナー交響曲4番の最初の録音はピッツバーグ交響楽団で、1956・4・19というデーターが残っている。多分ピッツバーグ交響楽団はブルックナーの交響曲を演奏するのは初めてのようで、困難を極めた練習の光景がドキュメントで残されている。アンディ・ウォホール(1928-1987)が生まれた地元で、ボヘミア移民の多い土地で、音楽は打ってつけであった。 (CAPTO…

オッペンハイマーと現代史

世紀の天才科学者オッペンハイマーとアメリカ共産党党首ランバートとは、6回会っている。ソビエト共産党からウラン鉱床についての情報を入手せよと命じられていた。オッペンハイマーの恋人ジーン・タトロックは知り合いだったので、面会してその情報を得たかった。 ひょんなことから驚くべき情報源を入手することになった。それはまったく偶然なことであった。原爆研究の張本人に、共産党党員の恋人がいて、容易に情報を入手す…

オッペンハイマー、本で読むべし・映画で見るべし

                起 映画『オッペンハイマー』が今月公開されることになった。昨年アメリカで大ヒットしたが、内容が硬いというので日本では見送りとなった。それが撤回された。 オッペンハイマーといえば、日本では本を通してしか知らないわけだが、映画では大いに相違しているらしい。原爆を開発した科学者だが、大いに反省して水爆には反対した。科学者の良心を見せた反戦平和の旗手というのが売りであった…

リアルタイムでスタインバーグのブル5番を聞いていた日本の聴衆

実はスタインバーグ(1899-1978)のミュンヘンのバイエルン放送交響楽団の演奏を1978年に聴いていた日本の聴衆がいたことが判明しました。1978年1月12日にスタインバーグはバイエルン放送交響楽団でブルックナーの交響曲5番の指揮をしたのですが、その年の5月16日に死去したことは驚きで迎えられたらしく、1・2年遅れで放送される海外の演奏会の放送が意外に早くNHKFMで放送されたようです。 で…

ブルックナー生誕200年最大の収穫はスタインバーグ再評価

今年はブルックナー生誕200年記念、最大の収穫はスタインバーグ指揮ピッツバーグ交響楽団の4番の録音(1956・4・19)の演奏だろう。旧聞に属するネタだが、何故これまで人の噂にのらなかったのであろう。余人には求められない新しい響きであった。その新しさが50年も寝かされていたのだ。いい加減熟成され過ぎて腐ってしまいそうだが、一層の輝きを放っている。手垢が付いていなかったので、手練手管の名匠巨匠に揉…