続パスカルの葦笛のブログ

FMラジオやテレビやCDのクラシック音楽の放送批評に特化したブログです。

連続テレビ小説『ブギウキ』最終回と笠置シズ子の時代

今日で『ブギウキ』最終回となりました。笠置シズ子の死まで演じられるのかと思ったら、意外でした。ブギウキの女王として戦後闇市、まさにオキパオト・ジャパン占領下の日本を代表する歌手でした。


笠置シズ子のものまねで出てきた美空ひばりに、歌手の座を奪われる笠置シズ子は喜劇女優として映画に転じるわけです。美空ひばりは嫌いだと公言していましたね。皆さんも気づいておられるでしょうが、笠置シズ子のブギウキのリズムは間延びしていますよね。その点で女優の高峰秀子の歌うブギウキの方が若干優れている。美空ひばりの敵ではないですわ。食われて越される。


このことは何を象徴しているのでしょう。


喜劇女優に転じて活路を見出した笠置シズ子の生き方は優れている。顔は田舎娘で洗練された美人ではないのです。喜劇女優は落ち着く所に落ち着いた感があります。


映画はやがてテレビに活躍の場を移すのです。フジテレビの『台風家族』(1960-1964)は喜劇女優笠置シズ子の代表作になりました。本物のタクシーが画面に登場する時もあった。今フジのCEOの日枝さんが演出したとか。当時のテレビはホーム番組の全盛時代で、松本幸四郎一家総出演で、夫人は女優ではないはずでしたが、主婦役で出演して社会問題を取り上げて、家族全員で話し合うのです。中村晃子が娘で中村伸郎が父役のホームドラマがあった。今思い出すと、キャスティングは中村つながり、だったか。気難しい中村伸郎が中村晃子の父役というのが面白い。「先生、布団の中に女がいたらどうするんです」(中村伸郎)「俺だったら頂いちゃうな」(里見弴)。


『台風家族』は個人タクシーの運転手が主人で笠置シズ子が女房ではなかったか。ここに娘のボーイフレンド役に蜷川幸雄が出演している。人畜無害の爽やか青年である。その裏に刺刺しい毒を内包しているとは夢にも思わない。炭酸水が気力が無くなって捨てられるような青年の運命だったはずだ。アングラの時代に成り、演出を頼まれて開花する。その前に、爽やか青年に頭が立ち、『ガードマン』に悪役として出演する。これで俳優蜷川幸雄は終わったと見られた。演出家に転出して文化勲章に至る人生は予測がつかない。


喜劇女優笠置シズ子はテレビに単発で出演し、1985年70歳で死んだ。いささか短い人生であったが、売れて終わった人生だから、これで良しなのだろう。女優人生30年は触れられなかった。我々の知っている笠置シズ子はまさにそこなのだが。


さて、歌手から女優への転出について触れておきましょう。
美空ひばりは間違いなく戦後の歌手。笠置シズ子は戦前の歌手で、戦前を引きずっている。ヤクザでいうと、戦前派は任侠道だった。戦後派は仁義なき戦いの組である。後先ない今だけの軽いリズムはそこからくる。時代風潮は美空ひばりに淘汰されるのだ。義理人情に引きずられてはこうはいかない。「地方に行くと地元の親分が五人も六人も現れて仁義を切れというの。私は歌いに来たので、仁義切に来たんじゃない。何とかしてよ」「そうだな」というので全国統一が始まった。