続パスカルの葦笛のブログ

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フルトヴェングラーウラニア盤『エロイカ』名演説の根拠

第二次大戦末期のドイツでは、録音技術が発展して鉄線に録音する技術が発明された。やがて素材の鉄線が伸縮力に脆いので、素材が開発され化学繊維や日本のソニーは和紙が使われるようになった。テープに鉄粉を付着させたのである。しかし一貫して使用されたのが鉄粉で、鉄分と磁気の関係が録音再生の元になった。


その研究開発の為に、こともあろうに二流所のオーケストラではなく大一流のオーケストラや大指揮者が労働奉仕の名の下に強制労働されたところに、ウラニア盤『エロイカ』が生まれた所以がある。そういうわけで、録音技術の開発のために、ウィーン・フィルとフルトヴェングラーも労働奉仕が課せられて、新しく開発された録音素材で録音することになった。


1944年12月18日、スタジオで1時間演奏を行う労働奉仕が課せられた。一発録音のノン・ストップの演奏であった。演奏曲目はベートーベンの交響曲3番『エロイカ』である。すでに何度も演奏した演目であった。新たな修正はなかった。多分フルトヴェングラーその人は初めから乗り気はしなかったが、1時間の苦役も重大な苦痛でもなかった。1時間の苦役労働に耐えればいいだけだった。それなら反発してトラブルを起こすよりは、早く終えるしかないわけだ。多分通常のフルトヴェングラーより速いテンポになったのは、早く苦役から解放されたかっただからであろう。ところで嫌な苦役だけの労働であったが、フルトヴェングラーは興に乗ってくる自分を発見するわけである。何時の間にか、苦役労働を忘れて官能すら覚えて来る。ベートーベンの音楽の凄いところで、酔いしれてしまう。これが譜フルトヴェングラーの内面の問題である。


1944年のアメリカ、トスカニーニとNBC交響楽団も演奏は録音されていて、フルトヴェングラーの実演録音の場合とさほどの違いはない。1944年のドイツではオープン・リール(鉄線)での録音が発明され各段の改良がみられていた。スクラッチノイズが絶無になった。モノラル録音の最高度に到達してしまった。ウラニア盤が評価されるのは、この点であろう。フルトヴェングラーの演奏で、最高の音響を提供する。ある面では願っても叶えられない要求を叶えているわけである。


1 当時としては破格の音の良さ(モノラルの最高峰)。
2 速いテンポ。


ウラニア盤の特徴はこの2点に集約される。
ところで速いテンポだが、単に苦役を早く終わらせるためという反対解釈も成り立つ。いかがなものであろうか。戦後ソニーは独自開発で、磁気録音の原理を知っていたので、強度のある和紙をテープにして磁気テープを開発して録音機を発売した。大町陽一郎はこの録音機を持ってウィーンに留学した。バイロイト音楽祭のクナッパーツブッシュのラジオから流れる演奏を、ソニーの録音機でせっせと録音したそうだ。なんとも羨ましい話だ。今はCDで容易に買える。その差の価値が大町陽一郎の価値だった。