トム・クルーズの映画『ワルキューレ』は、第二次大戦中にヒトラー暗殺を計画するドイツ陸軍のエリート軍人たちの暗殺計画の実話物語である。実行者のニュタウフェンベル大佐（トム・クルーズ）はレコードを聴いて暗殺計画を練るのだが、

ワーグナー作曲『ワルキューレの騎行』
ハンス・クナッパーツブッシュ指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

と記されたSPレコードを聴くのである。ヒトラー暗殺計画はこのエピソードから『ワルキューレ作戦』と呼ばれた。

このSPレコードは本当にあったか。

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戦前のクナッパーツブッシュはお世辞にも一流指揮者ではなかった。ましてやワーグナーの権威筋は微塵もなかった。

バイロイト音楽祭１９２４年『マイスタージンガー』ブッシュ指揮バイロイト祝祭管弦楽団バイロイト音楽祭１９５１年『パルシバル』クナッパーツブッシュ指揮バイロイト祝祭管弦楽団

フリッツ・ブッシュ（１８９０－１９５１）とクナッパーツブシュ（１８８８－１９６５）。二人はケルン音楽院の同級生で、ブッシュが『マイスタージンガー』をバイロイト音楽祭で上演した時、クナッパーツブシュのほうは副指揮者だったのだから、雲泥の差であった。

そういうことを考えると、クナの指揮でベルリン・フィルの『ワルキューレの騎行』のレコードは映画用の小細工か。興味のある方はカタログを調べて下さい。ハリウッドがクナのレコードにしたという所が興味深い。

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世にバイロイト音楽祭副指揮者三人組がいる。

１クナッパーツブッシュ（１８８８－１９６５）？ー１９４３副指揮者。
２レジナルド・グットオール（１９０１－１９９０）１９５１－１９６２副指揮者。
３飯守泰次郎（１９４０－２０２３）１９７０－？副指揮者。２０数年。

誰であったか高名な指揮者から、飯守泰次郎に向かって副指揮者などというものは長くやっていてはいけないと忠告されたことがあったらしい。

この三人は一癖も二癖もある大指揮者にはなった、とは言える。副指揮者という鬱屈を糧に一癖二癖、曲者に大成したのだった。