続パスカルの葦笛のブログ

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今年最大の名演マリン・オルソップ指揮スウエーデン放送響のショスタコ5番

マリン・オルソップ指揮スウエーデン放送響のショスタコーヴィッチ交響曲5番の演奏である。(2023・2・3)まだ今年の演奏である。今年の最大の名演であろう。


逆境を跳ね除けた交響曲(通説)、あるいはホーネックはショスタコーヴィッチは5番で新しい手法を発見したのだという。音楽を二重構造にして、表面上はスターリンを喜ばしながら下部構造に皮肉なメッセージを込めたのだという。ムラヴィンスキーのようにスタリーンが喜んだように演奏するか、ホーネックのように皮肉を解読するか。


マリン・オルソップは二つの解釈に組せず、抑圧に対する抗議だと解釈する。第四楽章の勝利の行進が重たいのも、まだそれが解決していないからだ。


第四楽章が最大の名演であった所以かも知れない。
オルソップは第四楽章の壮大な開始がファンファーレで開始するのだが、行進の足取りは、もう遅い。トランペットの行進が、ショスタコーヴィッチはアレグロなのに、オルソップはアダージォの重たいテンポで演奏させている。102小節あたりから元来のテンポに速められるのだ。


110小節からまた遅いテンポに戻される。抑圧と抗議が繰り返される。122小節の束の間のまどろみが美しく輝く。
人生は解決策もなく抑圧と抗議が反復ししてフィナーレを迎えるのである。
そのフィナーレもオルソップは「これが人生だ」と言わんばかりの確信で終えるのだった。
142小節の第二拍で倍の遅さになる。143と144小節の間の長い空白で、人間が息絶えるように物語っていた。


師バーンスタインよりオルソップはこの世に悲観しているようである。その悲劇性がよく表現されていた演奏であった。