ズッカーマン指揮東京フィルハーモニーのベートーベン7番
音楽家が指揮者に転向する話はよくあるが、さりとてプロの指揮者に転向するでもなく、というのはあまり類例がない。前にオイストラッフがあるくらいだ。ズッカーマンもさりとてプロの指揮者に転向する意欲はないようだ。
昨今指揮科を卒業してそのまま指揮者になり、オーケストラの中でバイオリン奏者の立場からすると、いかにも横暴な要求を掲げる指揮者に異議申し立てしたい気になる。そういう立ち位置の指揮者がズッカーマンであろう。
楽譜の読み方が丸で違うのだ。指揮者にない読み方をする。第一楽章のバイオリンの277小節のpiu fの読み方だ。ダイナミクスはfpiu f ff と3段階に変化することをベートーベンは楽譜で要求している。
エツシェンバッハ指揮NHK交響楽団は、fの所ですでにffにしている解釈だ。
三段階の変化のpiu f に独自の意義を認めたのがヨッフム指揮ロンドン響で、piu f で大規模なリテヌートを掛けてテンポを落としている。
ズッカーマン指揮東京フィルは、ヨッフムの意義を認めつつテンポ変化の同意はしない。ffでダイナミクスの変更で切り抜けるのである。
これがベートーベンのpiu f のズッカーマンなりの解釈なのだ。
piu f は、リテヌートかffかの違いがあるが、心理的効果としては同じなのである。
さらに、298小節のテインパニをズッカーマンはffで強調したことだ。
このffの強調は独創的であった。他の指揮者では聞いたことがない。これはズッカーマンの個人的な趣味ではあるのだろう。
バイオリニストとしてオーケストラで弾いていながら、指揮者の見落としている所を拾い上げたいというのが、指揮者ズッカーマンの取り柄なのであろう。