続パスカルの葦笛のブログ

FMラジオやテレビやCDのクラシック音楽の放送批評に特化したブログです。

あらゆる『ジュピター』の最高峰クレンペラー指揮ウィーン・フィルの『ジュピター』1968ライブ

クレンペラーのモーツアルト交響曲41番『ジュピター』は定評のある名演だが、1968年ウィーン・フィルのライブは、数多ある『ジュピター』演奏の最高峰に躍り出たと言える。


この頃モーツアルトといえばカール・ベームが最高峰の演奏を示していたわけであるが、クレンペラーの演奏が終わった瞬間のウィーンの聴衆の大熱狂は何だったのだろうか。こういう演奏にも共感を示し、熱狂覚めやらないウィーンの聴衆とモーツアルトはベームが最高という評価の温度差は何を物語っていたのか。


ヨッフムのライブも希少だったが絶無ではなかったが、クレンペラーのライブは絶無であった。ユダヤ人だから国内使用はギャラに含むが海外使用は別料金といった契約があり、日本薄給協会(NHK)は舌を出すのも嫌という体質で、料金発生するクレンペラーの録音を敬遠していたのか。カザルスのプエトリコ音楽祭はデモ・テープ(カザルス指揮でワーグナーの名歌手)を送って来たが、毎年寄付金が欲しいというのでお断りしたと聞く。海外の放送局から無料でテープが送られて来て、放送終了後そのテープを送り返すらしい。そうするとクレンペラーのテープは一本も送られて来なかったか。面白いのがウィーン・フィルで、アバドは録音に失敗したのでテープが送られて来なかったという例がある。ステレオ録音の草創期のことで、そんなこともあるのかな。


もちろん聞く側は完全にモノラル録音の時代であった。今回のクレンペラーの『ジュピター』だが、ステレオ録音でありながらラジオ放送を録音した電波ノイズが聞こえるので、個人でステレオ録音したことになる。いささか残響音が大きいのは正規の放送局の録音でない気がしないでもない。


さて、本番の演奏、第一楽章の22-23小節で、3つの音符に極端なほど大きなリタルランドを掛けている。
クレンペラー指揮ウィーン・フィル1968年のライブ録音である。


ここでアゴギークを利かせた人にフィッテンベルク指揮ウィーン交響楽団の演奏があった。ポコ・リタルランドである。彼は1968年にクレンペラー指揮ウィーン・フィルの演奏を聞いていた可能性があるように思う。


かと思うと、同じ音型の再現となる210-211小節では、CDでは小規模のリテヌートになっている。クレンペラーは1968年のウィーン・フィルでの演奏を先取りしてもいるわけである。


しかし何と言っても大胆に22-23小節でリタルランドを掛けたことに意義があろう。今ユーチューブで無料公開されているので、『ジュピター』中の『ジュピター』と呼びうる名演の白眉をこの際に鑑賞していただきたい。クレンペラーにしても生涯に何度もない名演であったように思う。


120小節で、クレンペラーはCDでは省略しているが、1968年ウィーン・フィルのライブでは、珍しくダ・カーポ(反復)をしている。これもここならではの聞きものになっている。


第四楽章、ゴーダもクレンペラーは大胆なリタルランドを掛けて終わっている。
ここでリタルダンドした指揮者はローゼンシュトック指揮NHK交響楽団の演奏しか記憶にないのであるが、今では終わった指揮者ローゼンシュトックの白鳥の歌ではなかったかと思う。彼の功績は過度期の淘汰されるべき消耗品なのだが、それで終わらないから白鳥の歌だったとなる。このローゼンシュトックとクレンペラーとが最後の最後にリタルランドで終わったというのが感銘深いわけである。これも今の非ピリオド派もピリオド派も避けて通っている。比類ない卓越した名演をこの二人に見るのである。


この天下の名演を今ユーチューブで無料開放されている、是を聞くに而かず。