続パスカルの葦笛のブログ

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古楽に接近したアバド指揮モーツアルト管弦楽団の『ハフナー』

アバド(1933-2014)は晩年の2004年にイタリアにモーツアルト管弦楽団を設立して、一連のモーツアルトの交響曲の録音をした。ある面ではモーツアルトの交響曲の演奏の総仕上げであったわけだが、フアンの予想に反して円熟ではなくて古楽器奏法というアバンギャルドへの転向表明であった。


アバド73才の転向表明は、端的に言って過激であった。なぜ長年の伝統的な解釈を円熟させるのではなくて、今流行の不易流行に様変わりさせる理由があったのか。長年のフアンがこの一連の録音に賛成しなかったのを見ると、アバドの考えとフアンの思いとの間に越えられない溝があった。


73才の老人があえてホグウッド指揮アカデミー室内管弦楽団の演奏に三顧の礼で帰依した信仰告白は尊いともいえよう。ホグウッドというモーツアルトの演奏に革命をもたらした新流行に帰依した旧派の重鎮アバドは、新しいモーツアルトの演奏を身に着けようとして、新境地を開き見事成功したといえよう。


第二楽章、49小節の第一ヴァイオリンで、ホグウットとアバドはテンポを落として演奏している。
よほどホグウッドの演奏に共感したとみえる。


最大の共感は第三楽章だろう。
3小節の縦線でブレス(間)して、20小節の縦線ではさらに大きな間を開けているのが
ホグウッドとアバドの解釈であった。
後者は明白にホグウッドの解釈をアバドが受け入れている格好になる。さらに続く24小節では、楽譜にはファゴットと低弦は音符があり演奏されるのが通常だが、ホグウッドはここを2分休止にさせていて、アバドが同じに終わらせている。アバドの完全なホグウッド帰依といえよう。


ということで一般的には長年のアバド・フアンにとってモーツアルト管弦楽団でのモーツアルトは不人気であるようだ。しかし老いてもなお新しを追い求めた精神のみずみずしさは尊いのだろう。