続パスカルの葦笛のブログ

FMラジオやテレビやCDのクラシック音楽の放送批評に特化したブログです。

アクセル・コーバ指揮バイロイト祝祭管弦楽団の『タンホイザー』

なかなか個性的な解釈で感心した。近年の『タンホイザー』では傑出した演奏だった。


『序曲』13小節のクラリネットを名演の誉高いサバリッシュ指揮バイロイト1962年と同じクレッシェンドしている。
サバリッシュと同じ所でアクセル・コーバもクレッシェンドしている。


37小節の3連音符で、コーバは大胆にもリラルランドを掛けた。個性的な解釈だ。
大胆な解釈だけに、オーケストラはいささかぎこちない演奏で揺れている。多分長く深い伝統にはない解釈で、コーバの斬新な解釈はバイロイト祝祭管弦楽団の抵抗があったのだろう。


379小節のAssai strettoが凄かった。
ポケットスコアだと1頁におさまるのだが、ペータース版は分断されていて分かり難いのだが、ショルテイ指揮ウィーン・フィルが音型の冒頭をsfにしている所を、sfを8分音符ないし4分音符に切り離してアクセントを付けて演奏している。テインパニはトレモロの連打だが一打にしている。3小節にわたるトレモロの結尾と冒頭が見える。その結尾の8分音符に又コーバはアクセントを付けて打たせている。


非情に煩雑に聞こえるのだが、このコーバの作為は53小節の長きに渡って続き、『タンホイザー』の演奏で最大の特長をなしている演奏になった。


コーバのユニークさを最後に指摘しておこう。前後するが、301小節だ。300小節でフルトベングラー指揮ベルリンフィル1951年は、クレッシェンドを掛けている。
コーバは正反対で、何と4つ目の音型にポコリテヌートを掛けている。301小節に入る前に一瞬気が抜けてテンポが緩むのである。それでffが効果を生んだ。凄い。脱帽である。フルトベングラー対コーバ、コーバの勝ちである。


その後で長大な序曲が終わるのだが、最後の2小節はフルトベングラー以来和音を切って終わる伝統をコーバは従わなかった。


この後ドレスデン版を使用しているコーバは、一幕序奏に続いた。


かつてはワーグナーといえば序曲集で一回の演奏会が開かれて、今から思うと笑止千万な代物なのだけれども、この後の長いオペラでコーバは伴奏しているだけを思うと、序曲で腹一杯の満足感がないでもないのである。序曲集で味わうことも決して馬鹿げていない。つまり序曲と歌劇全体は同天秤なのである。


かつて吉田秀和がセルのワーグナー序曲集を演奏会で聴いてそんな不満を述べたことがあるが、コーバの『タンホイザー』序曲を聞いて大満足を感じた次第である。


Oアクセル・コーバ指揮バイロイト祝祭管弦楽団歌劇『タンホイザー』(2022年8月8日)