続パスカルの葦笛のブログ

FMラジオやテレビやCDのクラシック音楽の放送批評に特化したブログです。

プロの酷評と読者支持の狭間で・宇江佐真理年譜(1949-2015)

昭和24年(1949)10月20日、北海道函館市に生まれる。


昭和44年(1969)20才。
函館大谷女子短期大学を卒業する。OLになる。その後結婚し、専業主婦となる。やがて創作に意欲が生じて、投稿を始めた。ここまではカルチャーセンターに集まる文芸コースの受講生である。


岡田斗司夫が学校とは一時間にねじ回しを千回回せる能力の開発に尽きると喝破したよに、そう出来ない人間の排除でもある。要領よく学べる人間だけを必要としている。そこからはみ出した人間は必要ないのか。どうもそうでもないらしいのが、時代小説家宇江佐真理であった。規格とサイズに合わない人間がいて、どうしてもそれに合わせられないで、自分の尺度で書き出した。


平成3年(1991)42才。
「国直・別れ雲」が『オール読物』新人賞候補になる。


平成4年(1992)43才。
『泣きの銀次事件帖』で時代小説大賞候補になる。


平成7年(1995)46才。
「幻の声」で『オール読物』新人賞を受賞する。


平成8年(1997)47才。
髪結い伊三次捕物余話1『幻の声』が刊行される。また『アラミスと呼ばれた女』で時代小説大賞候補になる。


平成9年(1998)48才。
『幻の声』が直木賞候補になる。
O魅力的な男女、これだけ描けばいい。捕物がしっかり書けていない。(田辺聖子)
O見逃し難い瑕がある。人間を描くことを忘れている。(黒岩重吾)
O捕物帖としてのストーリー納得させるお話の要素がほしい。(阿刀田高)
O人間の書き方が浅い。(平岩弓枝)
O小説の構成説得力が都合主義。(渡辺淳一)
O作品の構成に粗雑完成度劣る。(津本陽)
O事件の謎に乏しい。(井上ひさし)
宇江佐真理は才能があり、ここまで小説家として登り詰めたが、最終的に詰めが甘いと評価された。それは致命傷であったが、大衆にはどうでもよい評価だった。青物市場で規格品外と呼ばれた野菜だった。食べるのに、つまり読書するのに何の障害にもならない傷であった。道の駅では十分商品として通用する品物であった。


「幻の声」は、出張床屋伊三次の探偵小説である。江戸時代床屋が十手の下働きをしていたが、それを扱った最初の探偵小説になった。その意外性が評価させた。
大店で誘拐事件があり、彦太郎が容疑者になったが、犯人として色の芸者駒吉が出頭した。しかし彦太郎を救おうとしている。何故だ。湯屋から彦太郎の歌が聞こえた。駒吉には幻の声、大好きな亡父の声だった。只では歌わないと、座敷に呼んで歌わせた。金がなくなり、二人は誘拐事件を計画した。牢獄に伊三次を呼んで、駒吉の髪を結わせる。お奉行様の粋な計らいに感動し、何もかも白状する。駒吉は彦太郎を罪人にしたのが申し訳ないと自首したと告白する。そして剃を盗んで自害した。見事な直木賞だった。


「備後表」がいけない。
伊三次は町回りをしていると、幼馴染の喜八が畳の張替えをしていた。二人で昼食を取った。「おっかさん元気かい。今も備後表を織っているのかい」「ああ」
喜八の母は名人で、江戸城にも使用されていた。伊三次は実物を見たくなり調べると、酒井公の屋敷で畳の張替えがある。喜八の母を連れて見に行った。奥女中が出て来て曲者呼ばわりした。屋敷は大騒ぎして、大奥の局が現れ、「何事だ」「畳の張替えです」「それは何だ」「私が織った備後表です」「わらわも備後生まれだ」大奥の局と喜八の母は意気投合した。
畳表は生産地で生産され、畳屋は畳を織らない。大奥は江戸城の大奥のみ。そういう宇江佐真理の軽はずみな時代考証のミスは、プロの時代小説家の反発を買った。自分たちはその為に苦労しているのだ、と。


平成10年(1999)49才。
「桜花を見た」が直木賞候補になる。
Oちょっと期待はずれ。(田辺聖子)
O時代考証の弱点。(阿刀田高)
O前作の独特の情緒がうすらいだ。時代考証がない。(津本陽)
Oこういう作品を書く場合ではない。間違い多い安易。(平岩弓枝)
O話のからくりが安直。(井上ひさし)


『室の梅ーおろく医者覚え帖』が吉川英治文学新人賞の候補になる。
O死と生を夫婦で扱うのがおもしろいがストーリー展開は弱い。(阿刀田高)


平成11年(1999)50才。
2月伊三次2『紫紺のつばめ』刊行され、直木賞候補となる。
O強烈な個性のゲストがいない。読みごたえなし。(平岩弓枝)
O手抜きが多い。(黒岩重吾)


『深川恋物語』が吉川英治賞新人賞受賞する。
O「さびしい水音」はすばらしい。一皮むけた。(阿刀田高)
O「仙台坂」がよかった。(伊集院静)


フジテレビで、『髪結い伊三次』シリーズが放送された。人気番組『鬼平犯科帳』の次作と目されたが、陰気な内容で低視聴率が祟って、シリーズ化されなかった。


平成12年(2000)51才。
『雷桜』が直木賞候補になる。
O飛躍の多い小説。考証が甘い。(北方謙三)
O構成にミスあり。おきのどく。(平岩弓枝)


7月伊三次3『さらば深川』刊行。


平成13年(2001)51才。
『甘露梅』。『余寒の雪』が中山義秀賞候補になる。


平成14年(2001)53才。
『斬られ権佐』が直木賞候補になる。
O魅力もなく退屈。(林真理子)
O小説としての粗さが目立った。(渡辺淳一)
O安直鼻白む。(阿刀田高)
O岡引に手札を渡すのが町奉行所の与力の間違い。(北方謙三)
Oもう一度初心に戻って。(平岩弓枝)
O女の蘭方医は存在しないのだが。(井上ひさし)


平成14年(2002)53才。
1月伊三次4『さんだらぼっち』を刊行。


平成15年(2003)54才。
『神田堀八つ下がり』が直木賞候補になる。
Oこの作品が候補になったのが不運。(平岩弓枝)
O江戸を無頓着に捉える癖。(井上ひさし)
O江戸時代の警察の不在。(宮城谷昌光)


「あやめ横丁の人々』が山本周五郎賞候補になる。
Oずいぶんアバウトな小説。(花村萬月)


9月伊三次5『黒く塗れ』が刊行。


平成16年(2004)55才。
7月『卵ふわふわ』を刊行する。


平成17年(2005)56才。
3月居伊三次6『君を乗せる舟』を刊行。


平成18年(2006)57才。
11月伊三次7『雨を見たか』を刊行。


平成20年(2008)59才。
7月伊三次8『我、言挙げす』を刊行。


平成22年(2010)61才。
7月伊三次9『今日を刻む時計』を刊行。


平成23年(2011)62才。
7月伊三次10『心に吹く風』を刊行。


?伊三次11『月は誰のもの』を刊行。文庫本書下ろし。


平成24年(2012)63才。
11月伊三次12『明日のことは知らず』を刊行。


平成25年(2013)64才。
11月伊三次13『名もなき日々を』を刊行。


平成26年(2014)65才。
1月『心に吹く風』で、乳がんで全身転移を告白する。
9月伊三次14『昨日のまこと、今日のうそ』を刊行。


平成27年(2015)66才。
『為吉ー北町奉行ものがたり』で、本屋が選ぶ時代小説大賞候補になる。
10月伊三次15『釜河岸』を刊行。
11月7日、死亡する。