続パスカルの葦笛のブログ

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ヨッフム指揮ロンドン交響楽団でベートーベン交響曲5番

1977年録音でフィナーレの過激なアゴギーク(伸縮)はおそらく古い時代の最後のあがきであろう。それほど凄みのある演奏だ。まず現代では体験できないものだ。


ヨッフム(1902-1987)は、84才で没したが、今考えるとそう老人でもない。誰も彼も90才で元気なのだから、老熟が阿保らしい。彼の立ち位置を考えると、ピアノのケンプだろう。偉大なる二番煎じで、バックハウスが控えている。ヨッフムといえば背後霊のようにフルトベングラーが控えている。ヨッフムもケンプも少しも真価が発揮出来なかった。


ヨッフムのロンドン響との全集で偉大なのは、完全反復を実行したことで、朝比奈隆と呼応したわけではないが、ベートーベンの作曲した反復は省略しないで全部実行しよう。これが最大遺産だった。どうしてそうなったかは今一つわからない。しかし10年は二人のベートーベンは先駆者として影響を与えた。


第一楽章。
303小節のホルンの加筆など、古さを感じる。478-482小節で大幅にテンポを落とす演奏はなるほど古い演奏なのだ。


第三楽章。
236小節の縦線でフェルマータを掛けてしばし沈黙する。ヨッフムのお箱でもある。かといって冒頭に反復するでもなし。
この沈黙は意味深である。当初は反復する予定であったか。


圧巻は第四楽章の演奏だろう。
50小節で52小節の音型のfと同じくfにしてえんそうしたのは納得がいく。


289-294小節の演奏が圧巻だった。
289・290・291小節と、ダイナミクスを変えて増大した。291小節ではffでクレッシェンドしてfffに頂点になるといった奇跡的な破天荒がなされた。凄まじい音になっている。音としてはここが頂点である。


もっとすごいのがテンポの揺れで、341-343小節だ。
341小節でポコ・アッチェレラントと少し速めた。342小節でアッチェレラントと速め、343小節はさらに速められた。344小節で戻され、357小節でまたアッチェレラントが掛かるのだ。
まあこういうアゴギークの妙はヨッフムで打ち止めにされる芸なのだろう。1977年の録音であるのが貴重だろう。この巨匠はあと10年生き残るのだが、もうないのだ。