続パスカルの葦笛のブログ

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画期的な演奏バーメルト指揮札幌交響楽団のシューベルト8番

バーメルトに間違いがあるとしたら、この画期的な演奏を消極的に表現したことだろう。本邦初の新全集版の楽譜で8番(9番)を演奏したことは画期的なことだ。


ノーマルなオーケストラではアバドが紹介した新全集版の楽譜で演奏されることは日本でも欧米でも稀である。アバド指揮ヨーロッパ室内管弦楽団による新全集版の8番の演奏は衝撃的な内容のわりには影響力がなかった。誰も踏襲しなかったというのが正直な印象だ。


第一楽章の、トロンボーンの201-202の延長は、実はフルトベングラー指揮ベルリン・フィル1942年の演奏で実演されていて、古い指揮者の楽譜の改ざんではないかと言われていたが、実はアバドの演奏でシューベルトの自筆譜なのという事が判明したという裏事情があった。
つまりアバドの自室譜の再現で、古い指揮者フルトベングラーが実は研究肌であったことが判明した。フルトベングラーの勝手な楽譜の改ざんではなくて、ブライドコップの楽譜研究に飽き足らないで自筆譜まで検討していた結果だったのだ。トロンボーンのフラットの付いた二分音符までが初めて日本で演奏されたのである。(それにしては弱めに演奏されたのが不満だが。)


とはいえ新全集版でそれが判明したのだが、旧来の誤りは是正されず誤りのまま依然として演奏られていた。今回バーメルト指揮札幌交響楽団の演奏によって、初めて楽譜の誤りが是正されたのである。蛇足を言うと、エーリッヒ・クライバーやクナッパーツブッシュといった人は既に引き伸ばして演奏していて、つまりシューベルトの自筆譜を見て是正していたわけである。


日本で初めて是正されたということは意義がある。


ところが324小節のテインパニで、古い楽譜はトレモロになっているのだが、新全集版は二分音符が二つになっている。
アバドではトレモロか二分音符二つかは判明できないで、バーメルトも同様だった。他方ロイブナー指揮NHK交響楽団は二分音符二つで演奏している。これもシューベルトの自筆譜を見ている派である。この辺りからバーメルトの新全集版支持は揺らぐ。


566-567小節のテインパニは、旧版がトレモロで、新全集版が二分音符四つになっている。
フルベン、アバド、マーグ、クライバーが二分音符四つ、バーメルトは旧版のトレモロにしている。


第四楽章。
コーダの金管のコラールだが、新全集版ではテインパニが伴奏していることがアバド指揮ヨーロッパ室内管弦楽団の演奏で判明しているのだが、ウィーンの巨匠たちも自筆譜を見ているわけなのに全員がテインパニを打たせない。
こうなるとアバドの演奏で新全集版が新開拓した研究の結果が怪しくなる。もちろんバーメルトも旧版で演奏している。シューベルトの新全集版の闇は深いようだ。


アバドの新全集版の演奏が餞別で追従者を出す流れなのだが、結果は動かなかった。旧態依然として古い楽譜が使用される。他方ウィーン由来の巨匠指揮者が新全集版を既に先取りした演奏をしているのだが、新全集版を全面的に取り入れている訳でもないのだ。この怪をどう見るのか。そういう意味でもバーメルト指揮札幌交響楽団がようやく新全集版を採用した演奏をしたことは快挙だった。