続パスカルの葦笛のブログ

FMラジオやテレビやCDのクラシック音楽の放送批評に特化したブログです。

近衛版ベートーベン3番秋山和慶指揮大阪センチュリー交響楽団(2)

第二楽章。
158小節の空白のテインパニでffの強烈な音が響いて度肝が抜かれる。
158小節は低弦の2分音符にff記号があるがテインパニは空白になっている。そこでこれを強調するわけで、テインパニに2分音符を加筆させてffで打たせている。


さらに、159,160小節でテインパニの空白に2分音符を打たせた。
それは管楽器の補強という意味なのだろうが、ffで強奏しているわけで、純粋に補強とは違うだろう。むしろ演奏効果を出すためだ。


それは168,170小節のテインパニの加筆に続くのである。
その背景となっている考えは低弦の2つの8分音符の強調である。168小節のテインパニの補強ではトレモロで演奏されている。


第二楽章の演奏の見せ場になっているが、ここで気がついたのは近衛版とは、近衛秀麿がオーケストラに呼ばれて行って演奏する指揮者用楽譜ではなかったか。


近衛には『英雄』の録音は残っていないが、録音していたらこういう演奏になっていたのではなかろうか、ということだ。


近衛版とは近衛秀麿が演奏会で指揮する為の自分だけの書き込みをした指揮者用楽譜だった。(全ての指揮者は自分の書き込みをした指揮者用楽譜を持っている。)広く一般的にベートーベンの欠点を克服した啓蒙が先に立つ標準楽譜と考えているが、そうではないようだ。


欠点克服ではなく、効果創出と見た。録音で残せないのを、生きていたら近衛秀麿はこういう演奏をしたということを楽譜で残した。


原爆は大国の強力な武器だが、貧者の原爆という呼び名がある。貧者は金が無いので原爆は造れないが、安くてお手軽な武器で原爆に匹敵する効果がある武器を造れる。フルトベングラーやトスカニーニはラジオ放送発掘をする。NHKなどテープを使い回しをしていたので記録が残らない。そういう国の指揮者近衛秀麿はラジオ放送のテープ発掘も無い。貧者の原爆がある。楽譜に書き込みを残して自分の名演を残す考えだ。


紙上レコード録音だ。レコード録音は100人の演奏家を雇用し、レコード会社に依頼して製作する。巨大な費用だ。1冊千円の楽譜9冊で、戦後手足をもがれて書斎しかない巨匠は、黙々として時間だけ有るのを幸いに落書きを楽しんだ。百科事典で儲けた出版社が文学全集や美術全集を出した。次は音楽全集で、近衛秀麿も狩り出された。復刻されているのは近衛秀麿だけだ。