続パスカルの葦笛のブログ

FMラジオやテレビやCDのクラシック音楽の放送批評に特化したブログです。

マーラー・プリングスハイム・山田一雄・下野竜也第九の系譜學

第一楽章300小節のテインパニの後半で山田と下野はリタルランドした。
山田一雄のこの演奏に接した時、私の動物的直感はマーラーが第九を演奏した時の痕跡ではないかというものだった。1943年からたった30年前肉体のマーラーがおこなった第九演奏を弟子のプリングスハイムは覚えていた。


下野竜也は2023・12・23にNHK交響楽団で、こう演奏した。この演奏に接した時、私は確信に変化した。マーラーから伝授された解釈を弟子プリングスハイムは弟子山田一雄に伝授したのだ。今年2023年N響の正指揮者に就任した下野達也は運命的なものを感じたに違いない。山田一雄指揮日本交響楽団(N響の前身)1943年の渾身の第九演奏がある。


1943年と2023年、同じN響で二人は第九を演奏することになった。二人を隔てる80年の歳月がある。薄っぺらな歳月ではない。この偶然の数字を奇蹟や運命と思いたい。歴史を肩に掛けようとする下野達也は、マーラーの痕跡に違いないと思った。関係者を訪問して証言を聞きまくった。「そうだよ。山田さん(業界的には山田先生なのだろう)はプリングスハイムからマーラーは第九をああ演奏したのだと言っていたのだよ」と。ようやく証言を得られたのだ。マーラーがN響に残した歴史的遺産を大切にしたい。N響の財産をこの度正指揮者として就任するにあたって継承したい。山田一雄をリスペクトする意味でも、山田一雄の演奏を再現したい。こういう並々ならない感慨があった。


マーラー・プリングスハイム・山田一雄・下野竜也に至る演奏の系譜がこう継承されたのだ。


ちなみに300小節のテインパニは、旧版だと4分音符なのだがベーレンライター版では下の弦のような16分音符としているので、下野達也はベーレンライター版を使用していることが分かる。


第四楽章。
下野竜也ははなはだ技巧的であった。とりわけコーダに差し掛かると、アゴギーク(伸縮)をみせた。917小節で弦が挿入される箇所でアッチェレラントで演奏を速めるが、918小節ではア・テンポで元も速さに戻る。925小節でまたアッチェレラントが掛けられて加速されるのだ。
925小節で加速されるとどんどん速度が速まり、927小節では2倍に加速された。もうテインパニの前半は無くなり、後半が2分音符のトレモロかつクレッシェンドと聞こえる。
1小節8分音符8つだが、もう加速されて8分音符4つになっている。つまり2倍の速さになっているわけだ。極めて技巧的な演奏をしている。これは褒めないといけない。そんじょそこいらで出来る芸当ではないのだ。


クレッシェンドが強打で聞こえるのが聞き所である。


聞き逃しサービスは12月30日まで、ここの演奏を聞くだけでも聞く価値有りです。