続パスカルの葦笛のブログ

FMラジオやテレビやCDのクラシック音楽の放送批評に特化したブログです。

小沢征爾指揮新日本フィルのベルリオーズ『フアウストの劫罰』

古い骨董雑誌に掲載された沢地久枝さんは骨董趣味があった。もう一つクラシック音楽の愛好家で、熱心な小沢征爾フアンであったので、『ファウストの劫罰』を聞いた。同じ演奏会を丸山真男も聞いていたという。


意外だが、小沢征爾はベルリオーズの『フアウストの劫罰』を何回か上演している。思う所があって得意にしたのであろう。そう傑作でもなく馴染み薄い作品を上演することが出来るのは「世界のオザワ」の人気バリューのある指揮者だからだ。


ここにはかつてラジオのニッポン放送が『新日鉄コンサート』(1955-2005)として放送したものがある。その音源は3回あるのだが、もはや特定できないが、評論家沢地久枝も聞き、丸山真男が分厚な楽譜を持ち込んで見たというクレジットのある演奏会であった。私もこのラジオをカセットでエアー・チェックした覚えがある。


この番組は女流バイオリニストのローザ・ボベスコの来日時に、出演し放送したことがある。


さすが新日鉄は太っ腹で、潤沢な広告費を投入した。金のないNHKより意欲的なクラシック音楽の紹介が出来た。企業の社会貢献で、意義ある文化事業を支援する。八幡とピッバーグで、製鉄所繋がりの町で、地元のオーケストラのピッツバーグ交響楽団と指揮者スタインバーグを招待したことがあった。


スタインバーグは戦前はシュタインベルヒという名前で知られていた往年の巨匠だった。スタインバーグ指揮ピッツバーグ交響楽団でブラームスの交響曲1番が演奏された。もう祖国ドイツでも失われたドイツ的な重厚な音を引き出して、当時の日本の聴衆の随喜の涙を誘ったのだった。ブラームスの交響曲の本当の演奏を聞きたければ、今やピッツバーグ交響楽団だと言われた。19世紀ではドイツが製鉄業の先進国で、イギリスのハレやアメリカのピッツバーグは製鉄所の設立と同時に製鉄業に熟知していたドイツ人の移民を誘致した。ドイツ人移民は自然発生的に楽団を設立して、ドイツ音楽の伝統をわすれなかったという。そういうわけで製鉄所のある町に優れたオーケストラが生まれた。それだけの理由でオーケストラを招待した。いい時代の一コマだろう。


貴重なドイツ的な音の響きを有するピッツバーグ交響楽団が、スタインバーグ指揮でブルックナーの交響曲4番の演奏をする貴重なフイルムが残されている。ブルックナーの音楽は初体験で四苦八苦している様が描かれている。この音楽をこのオーケストラに取り入れたいが、ブルックナーの様式がオーケストラには解らない。それを解らせるドキュメンタリーである。この功績で彼はボストン交響楽団に招かれる。ドイツ的な響きをボストン交響楽団から引き出しして欲しいという要請があった。彼の次のシェフが小沢だった。


そこで小沢征爾のベルリオーズの『フアウストの劫罰』の演奏記録を見よう。


(1)小沢征爾指揮新日本フィルハーモニー交響楽団(1985・9・19)
(2)小沢征爾指揮新日本フィルハーモニー交響楽団(1993・3・12)
(3)     同上              (1993・3・13)  
(4)小沢征爾指揮サイトウ記念オーケストラ   (1999・9・1)
(5)     同上              (1999・9・3)
(6)     同上              (1999・9・6)
(7)     同上              (1999・9・8)
          一説では、1999・9・3には録音・録画がされ、9・4は松本城下で野外公演さ   
   れたらしい。ちなみにユーチューブで公開されている。
   
松本市での公演は回数もさることながら、オペラ形式で上演され映像が残されている。小沢征爾の活動の記念碑ということになろう。こんなに『フアウストの劫罰』を指揮している日本人はいない。本人も好きなのだ。


                 *


さて、評論家の沢地久枝であるが、この人はクラシック音楽が趣味で骨董が趣味と多面的な人である。政治に厳しい眼を持つ辛口の評論家である。他面ではデモおばさんとしても知られている。あらゆる機会にデモに参加して政府反対を唱えている。


そこら辺の左翼と違うのはそこです。クラシックが好き、骨董が好き、という所だ。
骨董が好きな女性、三姉妹。向田邦子・沢地久枝・上坂冬子。(所蔵品はピカ一番ばかりなのだ。)そうすると骨董一家のお母さんは白洲正子になる。


ちょっと一般と違うのは、「男と骨董は金を惜しむな」という信条があったらしい。ということで最上の骨董店で最高の骨董を買っていた。だから集めた骨董は最高級のものだった。


怪しげな骨董店で怪しげな骨董を買う、これが一番危ない。この手が男だ。女は出した金だけの価値を骨董に求めるので贋物がないという。女性の骨董趣味の人の性格はいい店で高く買うこと。2・26事件を扱いながら沢地久枝は左翼で上坂冬子は右翼。嚙み合わないようでいて、骨董美で一致する。恐ろしいくらい人間性が解体している現代、統一しているのは
美だけだ。左翼の沢地久枝も右翼の上坂冬子も骨董に共通基盤がある。民芸は戦前と戦後で価値観が不変だった。美だけが信じられる。美意識が人間性を決定するのではないか。(そう言えば、駅前の外宣カーで細川護熙と同席した宇都宮健児を知って、夜中宇都宮健児を訪問して立候補辞退を要請したという。潔癖性と美学が許せなかった。称賛。)