続パスカルの葦笛のブログ

FMラジオやテレビやCDのクラシック音楽の放送批評に特化したブログです。

リアルタイムでスタインバーグのブル5番を聞いていた日本の聴衆

実はスタインバーグ(1899-1978)のミュンヘンのバイエルン放送交響楽団の演奏を1978年に聴いていた日本の聴衆がいたことが判明しました。1978年1月12日にスタインバーグはバイエルン放送交響楽団でブルックナーの交響曲5番の指揮をしたのですが、その年の5月16日に死去したことは驚きで迎えられたらしく、1・2年遅れで放送される海外の演奏会の放送が意外に早くNHKFMで放送されたようです。


ですから日本人で、FMでスタインバーグの5番の演奏を聴いた人がいて、エアーチェツクした人が少なからずいたのです。


(1)IbukiTube「ブルックナー、交響曲第5番1楽章(一部)スタインバーグ版(1978年)ライヴ」(2013・3・8投稿)
(2)Wahnfied「ブルックナー交響曲5番」(2017・11・11投稿)


今ユーチューブでは2種の録音が聞けるわけですが、(1)は国内で(2)は海外のものです。これを見ますと、(1)は国内の放送が音源で、かつ海外より4年も早く公開されている。


このユーチューブを見られた方がコメントを寄せられておられる。


「Siroizyou 9年前この演奏のUP,どなたかしていただけないかと待っていました。感謝です。当時私もたまたまエアチェックしていて度肝を抜かれ、その後何年も繰り返しカセットテープで再生したものです。超然でなく激情のブルックナーという感じでしたが、特に終楽章の猛烈な追い込みには圧倒的に感動しました。是非、フィナーレのUPをお願い申し上げます。」


大雑把に2024年として9年前なら2015年、投稿が2013年ですからその2年後にユーチューブで1978年のスタインバーグの5番を発見したことになる。


大フィル、今年の東京公演はブルックナーの「5番」を堤ての登場である。(宇野功芳「大阪フィル第十二回東京公演」『音楽の友』73年9月号)


ブルックナー指揮者の朝比奈隆を発掘した宇野功芳の一文で、この時から日本におけるブルックナーの演奏が始まったといわれている。1973年のことだった。洋の東西でブルックナーの再評価の機運が高まっていた時代であった。同じ頃、朝比奈隆が五番の演奏を世に問い、スタインバーグが5番の演奏を世に問うた。2つの五番は特別の感慨があったことになる。


しかしアメリカや日本でブルックナーをやるのは時期早々であった。それでスタインバーグは慣れたドイツでブルックナーを演奏した。スタインバーグの方はこの年志半ばで挫折するわけだ。朝比奈隆はブルックナー演奏の元年を迎え、次第に人気を得て行った。


彼のブルックナーは一様の演奏の形式ではなくて、楽譜の見方まで提示したものであった。
いみじくも「シャルク改訂版ではなく、スタインバーグ版というライヴだったものではと思います。」とIbukiTubeさんは述べておられるが、けだし至言である。指揮者スタインバーグの自分用の楽譜を越えたものがある。ワインガルトナーのベートーベンの交響曲の演奏の提言といったら言い過ぎであろうか。


スタインバーグの傑出したブルックナー指揮者の提言がある。
5番第1楽章。43-50小節のテインパニで、楽譜は一貫してトレモロだが、金管の語法に合わせてアクセントないしは一打にしている。
アクセントを付けたり付けなかったりの振り分けをしている。48小節後半からクレッシェンド・ディミヌエンドしているのがフルトベングラー指揮BPOとVPOである。マタチッチ指揮チェコ・フィルも同じ。スタインバーグは強打のインテンポで行って最後の一打もアクセントを付けている。ここはスタインバーグの独壇場のような気がする。


さらに、363-366小節のテインパニでは、ホルンの音型を演奏させている。
こういうことは4番の演奏(1956年)でも見られ、1978年の5番でも見られ、スタインバーグの優れた見識と判断します。スタインバーグのブルックナー指揮者たる力量です。


他の指揮者の追従を許さない独自の解釈が冴えている。アクセントの付いた4分音符を抜いているのも面白い考え方をする人だ。スタインバーグにはブルックナーの交響曲に一家言があった証拠だと思う。


これだけでもスタインバーグのブルックナー指揮者の面目躍如である。


5番、フィナーレの47-50小節のテインパニで、管楽器が全奏していながら48-50小節の空白をスタインバーグだけが穴埋めして打たせている。楽譜の読みがスタインバーグは格別なのだ。


ちなみに息子のピンカス・スタインバーグは全然ブルックナーは指揮しないようである。生まれながらのアメリカンには、ブルックナーにはいささかの興味も関心も共感もないようだ。アメリカのオーケストラにとって時期尚早なブルックナーの演奏ということで、ブルックナーの最高傑作にして難曲の5番を手慣れたドイツのオーケストラでぜひ演奏したかったのだ。