続パスカルの葦笛のブログ

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バーメルト指揮札幌交響楽団のシューベルト8番第四楽章

シューベルト交響曲8番第四楽章旧版1078-1081小節のテインパニです。新全集版では弦楽のfz4つに合わせてテインパニで2分音符が4つ打たれている。この譜面を見る限り、そうかも知れないと思わせる。ここが新全集版の校訂者の売りの物件になっている。


誰かが自筆譜を見て、シューベルトはテインパニは空白だと発見した。


校訂者はウソをいっていると言い出した。


校訂者は1078小節のテインパニの4分音符は、前者に属さず、後者に属すると解釈すると、シューベルトの真意はfz4つをテインパニにも打たせたかったのではないか、と閃いた。次は、fz4つ打つのは確信になった。そして4ケ所のテインパニの空白を埋めることにした。


ここの小さなウソがウソだとなり、全てが大ウソとなってしまった。


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最も問題になるのがコーダのテインパニである。新全集版を録音したアバド指揮ヨーロッパ室内管弦楽団の演奏がある。当然ながらホルンのコラールだけだった旧版が、新全集版はテインパニが加わっていた。今の所、テインパニ4つが聞けるのはアバドの演奏だけである。


この新全集版はどうも欧米のオーケストラでは全く普及しなかった。不可思議な現象であった。何故普及しなかったかというと、非難一つも出ないのである。完全無視だったように思う。


ベーレンライター版ベートーベン交響曲全集のデル・マーの校訂も勇み足がなくもない。それなのに、普及は早かったのである。熱烈に支持されたといっていい。サイモン・ラトルとベルリン・フィルは使用をめぐって対立し、そんなベルリン・フィルとはやっていられないと辞任した。ウィーン・フィルでベーレンライター版ベートーベン交響曲全集を演奏し録音した。ラトルは1-8番は古楽器奏法で、9番は従来の伝統的な演奏法で演奏した。そうするとベーレンライター版支持のラトルにも不満があったことになる。


これは古楽器奏法派の政治闘争なのかな、と思わなくもない。コンセルトヘボウやウィーン・フィルの古楽器奏法の学習・受容があったが、今は退潮しているようだ。元に戻ったといっていい。シューベルト新全集版が普及しなかったのは、古楽器奏法派に働きかけなかったことが原因の一つか。


新全集版では、1057-1061,1066-1069,1078-1080,1086-1089小節でテインパニが加筆されている。


実は校訂者の勇み足ではなかったか。誰かがシューベルトの自筆譜にはそれが無かったと指摘して、校訂者が勝手にテインパニを加筆したことが露見した。学問論争というものはそういうものだが、業界の噂話で終わって校訂者が悪者になった。


それで校訂者はウソつきということになった。この交響曲全体の校訂も信用出来なくウソだろうということになった。(小さなウソが大きなウソになってしまった。)信用失墜で、誰も演奏しなくなった。バーメルトはテインパニの修正は完全に不採用である。ロイブナーが自筆譜を見て修正しても、信用しない。第一楽章は旧版を自筆譜で修正して欠点がないと言える。


ここで、自筆譜を見た指揮者を列挙する。:フルトベングラー、クナッパーツブッシュ、トスカニーニ、エーリッヒ・クライバー、ロイブナー、マーグ。ワインガルトナー、ヨゼフ・クリップス、スワロフスキー。


これらの指揮者の録音を聞くと、そこそこ自筆譜と旧版全集の違いが判明する。新版全集がそう間違っていないことも判明する。


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似たような話があって、帝銀事件の犯人平沢貞通が、真犯人なのか冤罪なのか。


松本清張(『昭和史発掘』)は、平沢は手形詐欺事件をやっていて、帝銀事件は無実だと言えなくなったと推理する。小さなウソのために大きなウソがウソだと言えなくなったというのだ。松本清張は満州の石井部隊が生体実験の成果をGHQに証明して見せたのが帝銀事件の正体で、石井部隊の犯罪の免責と実験成果のお買い上げが目的だったという。松本はこの結果がベトナム戦争にうまく利用できたという。ゼロからの開発には膨大な時間と金がかかる。安い買い物だった。


そのためにわざわざ事件を起こした。犠牲者が出て、犯人が捏造された。実行した元隊員を犯人にするわけにはいかなかった。