続パスカルの葦笛のブログ

FMラジオやテレビやCDのクラシック音楽の放送批評に特化したブログです。

ウィーン・フィルの呪われたベートーベン交響曲全集の歴史

今の所最も理想形のフルトヴェングラー指揮ウィーン・フィルのベートーベン交響曲全集。 1 ワインガルトナー指揮ウィーン・フィルのベートーベン交響曲全集(1927-1938)。  当初はウィーン・フィルで全曲録音する予定であったが、ワインガルトナーの意向でロンドンのオーケストラを使用して完結した。ベートーベン没後100年記念の記念事業であった。ともかく一人の指揮者でなおかつベートーベンの権威者で全集…

リヒアルト・シュトラウス、ドレスデンの至芸を披露するルイージ指揮NHK交響楽団の『ドンファン』

ベートーベンのヴァイオリン協奏曲ではソリストはコンサートマスターの席に座って演奏するのが伝統であるとか、ドレスデン国立歌劇場管弦楽団には様々の伝統が生きている。ベートーベンの8番、ブラームスの4番もこのオーケストラ独自の楽譜がある。ホルンはベルリーズ由来の楽器が使用される。ディドローの『百科事典』に引用されたオーケストラのレイアウトはドレスデンのオーケストラのものであった。つまり最古のオーケスト…

小沢征爾指揮ドレスデン国立歌劇場管弦楽団のブラ1ザルツブルグ音楽祭1976年

この演奏から後期小沢の演奏が始まる記念碑的演奏である。それまでは現代音楽の旗手だが、決して古典派の作品を得意としていたわけではなかった。現代音楽が小沢の左顔だとすれば、古典派の音楽の小沢の右顔は付け足しのようなものだった。全体像は現代音楽の旗手だ。それで世に出た人だからだが大成功だ。 ところでマルケヴィッチではないが、戦後ストラヴィンスキーの『春の祭典』の指揮で売り出すと、それ一点張りで指揮に呼…

スウィトナーとバイロイト音楽祭管弦楽団の正体

スウィトナー(1922-2010)の息子イゴール・ハイツマンが監督した『父の音楽指揮者スィトナーの人生』(2007)というドキメンタリーがかなりの衝撃がある。正妻がいて、息子イゴール・ハイツマンとその母がいて、詰まる所『火宅の人』だったのである。 そうなると「前の人の子と別れて」結婚してくれというフルトヴェングラーの要求を受け入れた夫人という人のアン・レギュラーな考え方もだいぶ希薄になってくる。…

ルイージ指揮NHK交響楽団のヴェルディ『レクイエム』

今回のNHK交響楽団のヴェルディ『レクイエム』はルイージの勉強不足なのではないか。唯一救われたのが脱トスカニーニ色だろう。コマーシャルでも使われる第二曲「ディエス・イレ」の冒頭アレグロはトスカニーニの伝統の2小節アダージオ3小節からアレグロという演奏を排して冒頭から速いテンポのアレグロで演奏したことだ。 イタリア人指揮者としては従来はビクトリオ・グイ(1885-1975)だけが冒頭からアレグロの…

トリオで装飾音符を演奏した祖ルネ・ヤコプスのモーツアルト『ジュピター』

ルネ・ヤコプス(1946-)がモーツアルトの『ジュピター』を録音したのが2006年で、16年も経過した。モーツアルト演奏の急先鋒を演じてきた。モーツアルトの交響曲第三楽章トリオで、楽譜にない音符を装飾音符で演奏するという画期的な研究を発表して、モーツアルト演奏を常にリードしてきた。 ヨーロッパのスペシャリストや山田和樹などは踏襲したが、日本ではまだ追従はそう多くはない。装飾音符を演奏する音符がど…

東海林太郎が大中寅二の『椰子の実』世界初演、1936年7月9日

1936年(昭和11年)7月9日は奇跡の一日であった。その発端は前日にあった。昼、東京駅の通路を大中寅二は歩いていると、向こうからNHKの洋楽の課長が歩いて来る。かねてより知り合いで、挨拶をして別れた。  その夜、 「大中さん、電話ですよ」という声がした。その頃は固定電話は金持ちのステータスで、自慢でもあった。みんな呼び出し電話であった。すいませんと言って電話に出ると、昼間東京駅で会った男だった…

東海林太郎の『冬の旅』

東海林太郎(1898-1972)の『冬の旅』は天下一品であったと、音楽評論家の野村光一は評していた。「なにしろ戦前ドイツ歌曲を学んだ人でヒュッシュの歌唱を範とし、勉学の目標としなかった人は皆無にひとしいと言える位であった」(福原信夫)から、東海林太郎の歌唱もヒュッシュを範にしたものであろう位は想像に難くない。 当時1920年代の流行に新即物主義といわれる流行があり、その代表選手がピアノのギーゼキ…

ナチスの退廃芸術とゲルハルト・ヒッシュ

ワイマール共和国の混乱を受けて、ナチスは退廃芸術の粛清に向かいました。理想国家の立て直しがもっかの目標で、その際ハイデガーは大学は総統への絶対奉仕以外にありえないと演説をしました。 この頃ゲルハルト・ヒッシュも音楽奉仕を行い、ナチス党歌『鉤十字の歌』や『ハーゲンクロイツの歌』を吹き込み、新生国家の再建に夢を託した。いわばナチス賛美が国民の義務とされました。いわばヒッシュは歓迎されるべき芸術家であ…

実は恐ろしいシューベルトの世界

ドイツの有名なバリトン歌手ゲルハルト・ヒュッシュは、ドイツでは余りにも悲惨な内容なので『冬の旅』は録音拒否にあい、リサイタルや音大の教授で訪れた日本でようやく『冬の旅』が録音出来たと言われている。 日本で録音されたゲルハルト・ヒュッシュの『冬の旅』で、伴奏ピアノは何とマンフレッド・グルリットという豪華版だった。 パン職人は悪魔の職業といわれて、デブの人は一人もいないという過酷な労働だった。蕎麦打…

シューベルト『白鳥の歌』と梶井基次郎『Kの昇天』の関係

シューベルトと梶井基次郎の関係を、具体的な相関関係で見てゆこう。 シューベルト「海辺にて」「影法師」        梶井基次郎『Kの昇天』 1表題「海辺にて」               私はKをN海岸で知った。  小説の場所設定は海辺ということで、決定的に「海辺にて」の影響があった。 2夕方・月                     夕方・月 3漁師の小屋                  …

梶井基次郎とバリトン歌手ハンス・ドゥハン、名作『Kの昇天』を生んだ。

戦前オーストリアのバリトン歌手ハンス・ドゥハン(1890-1971)は、シューベルトの歌曲集『白鳥の歌』をレコードの全曲盤として初めて吹き込んだ歌手として知られている。そして何と1997年に新星堂プロデュースとして復刻されていた。(SGR-8217)今でもヤフオクとかメルカリに商品が登場し、最も入手困難な貴重レコードが、日本ではCD復刻盤として比較的容易に入手出来るようになっているのが、有難い。…

梶井基次郎の『Kの昇天』の歌手は誰か?

梶井基次郎は『Kの昇天』で、シューベルトの歌曲が好きで、口笛で演奏できるくらいになった。歌曲集『白鳥の歌』の12曲「海辺にて」13曲「影法師」(ドッペルゲンガー)の2曲であった。これらのSPレコードを所蔵し愛聴していたらしい。 『Kの昇天』は、N海岸を散歩していると自分そっくりな人物を目撃して衝撃を受け、思わず主人公はその人物を追いかけてしまうが、ハイネやシューベルトの『ドッペルゲンガー』つまり…

ワインガルトナーの考証の凄さ『レオノーレ』序曲2番にホストホルン使用

今ユーチューブで、クレンペラーの『レオノーレ』序曲3番のフィルハモニア盤とデンマーク放送響盤と立て続けに堪能した次第で、ワインガルトナーの演奏が思い出された。 ワインガルトナーの演奏の凄い点は、ホルンではなくポストホルン(駅馬車の警笛)で演奏していりところだ。モーツアルトはポストホルンの為の音楽を作曲しているが、結果としてはホルンで演奏されるわけであるが、当時人々は色々な思いでポストホルンを聞い…

あらゆる『ジュピター』の最高峰クレンペラー指揮ウィーン・フィルの『ジュピター』1968ライブ

クレンペラーのモーツアルト交響曲41番『ジュピター』は定評のある名演だが、1968年ウィーン・フィルのライブは、数多ある『ジュピター』演奏の最高峰に躍り出たと言える。 この頃モーツアルトといえばカール・ベームが最高峰の演奏を示していたわけであるが、クレンペラーの演奏が終わった瞬間のウィーンの聴衆の大熱狂は何だったのだろうか。こういう演奏にも共感を示し、熱狂覚めやらないウィーンの聴衆とモーツアルト…

驚異の90歳現役指揮者三石精一

指揮者の三石精一(1932-)は今年90歳で、なんと2022年1月30日に東京芸術劇場で指揮をしていた。 プログラムは、チャイコフスキー幻想序曲『ロメオとジュリエット』、グラズノフバレエ音楽『四季』Op67より秋、ショスタコーヴィチ交響曲5番。三石精一指揮東京大学音楽部管弦楽団。                   * さて、三石精一といえばNHKテレビの『夢のセレナード』(1965・1~)で、…

あなどれない指揮者ユロフスキイ指揮ロンドン・フィルの『エロイカ』

ユロフスキイの来日に合わせて、来日記念盤として発売されたのが、ベートーベン交響曲3番『エロイカ』で、オーケストラはロンドン・フィルである。ロンドン・フィルの自主製作で2014・1・22のライブ録音である。 とはいえ第3楽章までは無音で多分ゲレラルプローベを録音し、第四楽章が演奏会のライブ録音である。突然残響音が大きくなり、拍手が入っている。これなら全楽章ライブ録音の方が良かった気がする。 が、ど…

指揮者マリオ・ヴェンツァーゴ年譜考

マリオ・ヴェンツァーゴと言っても余り知らないでしょう。ということで、指揮者と明記してみました。一部では知られた指揮者ですし、去年来日して読響を指揮して、得意のブルックナーの3番を指揮しました。34年前にはNHK交響楽団を指揮し、近年NHK・FMでライブも紹介されたので、全く未知の指揮者というわけではありません。                    * 年代      年齢           …

ケント・ナガノ指揮ベルリンドイツ交響楽団ニコライ・ルガンスキーのブラームスピアノ協奏曲2番

ヴィルティオーゾ・ピアニストによる協奏曲、特に異はないわけだが、楽譜を改編しないケント・ナガノが大胆にも第一楽章のクラリネットをホルンに変更して演奏させていたのには驚きを隠せない。 ギュンター・ヴァントのリハーサルに参加して、ドイツの伝統的解釈に増々接近しているケント・ナガノは、とうとうドイツの伝統的解釈に共感を示したとしか言いようがないわけである。 第一楽章の194ー198小節のクラリネットを…

小澤征爾の立ち位置にいるチョン・ミヨンフム、後に誰もいない

2022年小沢征爾は86歳である。大層な高齢である。岩城宏之が没した頃、人は80歳を超えるのは結構大変なもので、その頃やはり大病をしていた小沢征爾の80歳越えが危ぶまれたが、また一山超えた活躍があった。ウィーン・フィルのニューイャー・コンサートの招聘はそういう名誉の一つであろう。CDが100万枚売れたということだ。 しかし寄る年波には耐えられず、2016年4月のベルリン・フィルを振ったのを最後に…