続パスカルの葦笛のブログ

FMラジオやテレビやCDのクラシック音楽の放送批評に特化したブログです。

西部邁と「孤高の指揮者宇宿允人」

保守論壇の巨星西部邁が、自分の番組で「孤高の指揮者宇宿允人」を特集している。宇宿允人(1934-2011・3・5)の没後百日で追悼番組をした。個人誌『発言者』で西部は宇宿允人を招いて、対談をしたのが最初で、5回ほど演奏会を聞いた仲になった。 宇宿允人が2011年3月5日に76歳で死に、7月に追悼番組を放送した。2005年に、東京芸術劇場で宇宿允人の演奏を二階の席で聴き、ベートーベンの『運命』とシ…

ベートーベン交響曲5番『運命』の構造

従来から『運命』は数学的構造に支配されているということが言われてきた。第一楽章の 提示部・展開部・再現部・終止部が「ほとんど同数の小節数をもち、非常によく部分間の均整がとれていることがわかる。」(諸井三郎)と指摘されていた。 バッハでは占星術の影響で、むしろ厳格な数字が厳守されていた。カントは天体の星座が厳格な法則に支配されて運行しているが、人間のモラルも星座の運行のように厳格な法則性に支配して…

不運な指揮者ヘルベルト・ケーゲル(1920-1990)

東ドイツの名指揮者ヘルベルト・ケーゲル(1920-1990)ほど不運な指揮者はいないだろう。人生には不運続きということがあるが、ケーゲルの不運もそうだった。不運に打ち勝つには奇をてらうしかないのだろう。 1979年、ケーゲルを日本に招聘したのは民音だという説がある。 O民音の招きで来日した。(青沢唯夫) 民音には知恵者がいることになる。『マーラーのすべて』(音楽の友別冊1987年)によると、この…

小林秀雄『音楽談義』昭和42年

対談の相手は五味康祐、クラシック音楽では最も信頼した人物である。骨董の青山二郎に匹敵する好敵手だ。正直に言えば骨董の青山二郎にクラシック音楽の五味康祐は、落ちるだろう。だが何かオーディオとレコードでは絶対的信頼を置いていた。五味康祐に信用を置く何かがある。実は五味康祐は片耳は聞こえなくて、終始イヤホーンを使用した聴覚障害者なのだが、そんな彼が小林秀雄のクラシック音楽の指南役にされたこと自体が可笑…

司馬遼太郎に奈良本辰也、松本清張に樋口清之

今年は司馬遼太郎(1923-1996)の生誕100年の記念年だそうである。東に松本清張(1913-1997)ありで、ともかく広い読者を持った。小林秀雄も「司馬遼はいいよ」と可愛いがった。大衆作家を国民作家に育てたひとだ。 司馬遼太郎は国民を左翼史観から国民史観に引き戻し、松本清張は違う意味で奥さんは旧陸軍の将軍の血筋を引き戦後の外務省に息子が君臨して、実娘がイタリア大使夫人になるほど保守で栄達し…

バリー・ダグラス、フィリップス指揮アルスター管弦楽団のベートーベン『皇帝』

ピアニストのバリー・ダグラス(1960-)、チャイコフスキー・コンクールの優勝者。来日したこともあるピアニスト。随分懐かしい名前である。 アルスター管弦楽団の所在地にして、バリー・ダグラスの生地が北アイルランドのベルファーストだという。ベルファーストと言えばテロの地ではないか。1960年代のベルファーストはアイルランド人とイギリス人が対立してテロを繰り返した殺人と暴力の町だ。しかし今では平和と音…

ライアン・バンクロフト指揮BBCウェールズナショナル管弦楽団のシューマン1番

ワルター指揮ニユーヨーク・フィル1945年ライブ録音をバンクロフトは研究しているのではなかろうか。それだけにワルターに匹敵した名演であった。 第一楽章。 冒頭のホルンのコラールをワルターはリタルランドを掛けて演奏したが、バンクラフトが踏襲していた。 2と4小節に二人はリタルランドを掛けていた。もう冒頭で名演のすすがを与えていた。 13小節のテインパニでは後半にバンクラフトはクレッシェンドをかけた…

シューベルト『美しき水車小屋の娘』と民話『猿嫁入り』(1)

一見何の関係もなさそうでありながら、この二つは同じことを語っている。19世紀のドイツの詩人ミューラー(1794-1827)の詩集『さすらうホルン吹き』(1821)の第一部が『美しき水車小屋の娘』の詩であった。しかしこの詩はイタリアの作曲家パイジェルロの歌劇『美しき水車小屋の娘』の台本であった。決して近代詩ではなかったのである。むしろ古臭い古伝説に基ずく民話であったのである。それは中世の水車小屋の…

ドレスデン版使用ハンス・シュミット=イッセルシュテット指揮北ドイツ放送響のブラームス4番

ハンス・シュミット=イッセルシュテット(1900-1973・5・28)死去1通間前のライブ録音とのことだが、またドレスデン版を使用していることが珍しい。ドレスデン国立管弦楽団ゆかりの指揮者ブロムシュテットや若杉弘以外に使用しているのはないので、部外者の彼がドレスデン版を使用しているのが珍しい。1973年5月の録音。 第一楽章。 コーダで異例のリテヌートを掛けた。 439小節のテインパニの4つの4…

『映像の世紀—戦争の中の芸術家フルベンとショスタコ』

NHKの『映像の世紀バタフライエフェクト—戦争の中の芸術家フルトヴェングラーとショスタコーヴィッチ』を興味深く見た。人間は国家から逃げられない。サッカー選手によってそれを知らされた。国家を自己否認したところで愚かと知らされて、日本のサッカー選手は改めて欧米並みに自ら国歌斉唱を歌うようになった。やがてスポーツ開催の前に国歌斉唱が当たり前になった。無関心や自己否認しても国家は無くならない。いやおうな…

坪内祐三(文芸評論家)年譜ー結構な不幸を淡々と生きて

坪内祐三(1958-2020)文芸評論家。一番似ている存在が十返肇か。目立つことなく存在し続けて一度もスポットライトが当たらないで終わった。しかし年収2000万円で20年続けて大層な収入と言えるだろう。著作は60冊、ベストセラーは一冊もなし。売れていないようでいて、売れている。有名であるようでいて、有名でない。 話は違うが、有名になって高収入で顔が知られないでプライバシーが保てるのは流行歌の作曲…

卑弥呼の正体を二歩前進させた研究

1『魏志倭人伝』は邪馬台国の住民が刺青をしていたこと。 2女王卑弥呼は巫女で神託を伝授させたこと。ひいては日本の巫女の原型であること。                   * 昨夜NHKラジオの深夜便を聞いていたら、野鳥の紹介で野鳥ミコアリサを紹介されていた。大変興味深く聞いた。 これがミコアリサという野鳥である。白い羽に眼の回りが黒くなっているのが最大の特長である。 何故ミコアリサと呼ばれた語…

カサドジュ指揮関西フィルの『幻想』交響曲

隅々に至るまで名演であった。92歳でアルプス交響曲を詳細に表現したハンス・ドレバンツと双璧だと言えよう。カサドジュの方は86歳という。 とくに第一楽章の演奏は詳細を極めた。 166小節の反復もカサドジュは行った。 451小節のテインパニでは、一打派と二打派に分かれるのであるが、カサドジュは一打派であった。 490小節でも同じ。 第二楽章。 231小節のフルートで、カサドジュは最後の2つの16分音…

モントウー指揮ロンドン交響楽団のブラームス2番

往年の名盤である。87歳の高齢だが細部に至るまできめ細やかな指示が行き届いていて、一点の揺るがしのない演奏が実に明解に聞こえるのが驚異でもある。ステレオ録音の最初期だが、不足のない録音である。 いささか通常でないのは、余人のしない第一楽章の反復を実行したことである。1962年の録音。1980年になるとジュリーニが再度第一楽章の反復を実行したが、この時のインパクトが強かった。しかし遂に反復は習慣に…

大江健三郎と成田三樹夫は同年同月同日生まれで同じ東大生

怪物俳優成田三樹夫は山形大学中退という経歴は知られていたが、その前に東大中退だったらしい。さらにノーベル文学賞の大江健三郎とは東大の同級生だったか。 3月3日、大江健三郎は88歳で老衰で死去された。とすると同じ年の成田三樹夫も88歳だったのだ。生きていてもおかしくない。感慨がある。 大江健三郎(1935・1・31-2023・3・3) 成田三樹夫(1935・1・31-1994・4・9) 同年同月同…

ダン・エッティンガー指揮東京フィルの『シェヘラザード』

リムスキー=コルザコフの交響組曲『シェヘラザード』は第三楽章の「若い王子と若い王女」の解釈が一番濃厚であった。 第三楽章。 106小節のピッコロで、2つの8分音符をかなりテンポを落としてリテヌートで演奏させたのが印象的であった。 同じ旋律は126小節の第一バイオリンで再現されるが、同様にエッティンガーはリテヌートでテンポを落とした。 さらに157小節の弦楽器、187小節の弦楽器で再現させる時、リ…

アレホ・ペレス指揮第二国立劇場のヴァーグナー歌劇『タンホイザー』

アレホ・ペレス(1972-)指揮のヴァーグナー『タンホイザー』はヴァッカナーレ連結のパリ版が使用されていた。出演者結構長いフレーズで歌っていたのが一番気になった。これが一番特長的だったか。 ヴァーグナーの『タンホイザー』(1845)がハイネの『タンホイザーの歌』(1836)『流刑の神々』(1852)の影響を受けていた。革命家としては友人であった。『さまよえるオランダ人』と『タンホイザー』はハイネ…

ロマン・ポランスキー監督とハイドンのパトロン・エステルハージ侯爵

ロマン・ポランスキー監督の映画『オフィサー・アンド・スパイ』(2019)は、19世紀末のスランスで起きた冤罪のドレフュス事件を扱った映画である。テーマは単なる詰まらない細かい事が気になり事実を蔑ろにするのが大嫌いな小心者の役人(軍人)が、陸軍全体に蔓延る冤罪体質を告発してやがて巨大な陸軍という役所が正義感を取り戻すという遠大な理想を掲げている。 神は細部に宿るという思想があるが、ピカール中佐とい…

ブリュッヘン指揮18世紀オーケストラのベートーベン3番

ブリュッヘンはハイドンからベートーベンへの交響曲の発展は実に明解であるという。ベートーヴェンの1番はハイドンの模倣で、それだけ交響曲の発明家の行き届いた理解がなされている。 通常は2番から3番への飛躍はロマン・ローランの傑作の森伝説で、凡人から天才の飛躍であったとされている。1番2番は凡人ベートーベンの駄作ということになる。若書きの1番はともかく、2番の駄作はなるほど演奏されない作品ということで…

恩師保昌正夫と小説家西村賢太の誕生

国文学者の保昌正夫(1925-2002)が小説家西村賢太(1967-2022)の生みの親であったことは余り知られていない。出産現場に立ち会った朝日書林店主荒川義雄の証言(『本の雑誌』22・6)がなかったら、知ることもなかった。 遺作『雨滴は続く』は、2004年西村賢太37歳の動向を扱った千枚の大作であるが、ここに保昌正夫らしき人物が登場するのだが、本人は2002年に没去しているので登場するわけが…